juin 14, 2010

ぜんぜん大丈夫じゃないよね

 ドイツはすごかったね。オーストラリアと「格の違い」。セルビアもガーナに敗れた。つまり、セルビアに完敗し、オーストラリアにも煮え湯を飲まされている(ジーコ・ジャパンのとき)日本代表は、南アフリカにいるのが間違っている感じ。それに対カメルーン戦は、魔のブルームフォンテーン! 何で「魔の」かって? 決まっているでしょう。95年のもうひとつのワールドカップ。『インヴィクタス』だよ。あのフィルムでも、ブルームフォンテーンでのジャパンの大敗が台詞になっていたよね。まだテストマッチのレコードになっているのかな?ジャパンがオールブラックスに大敗したゲーム。145点取られたからね。相手はまるでラン・パスの練習。それで次々にトライ。まだ目に焼き付いているよ。出場した選手たちは未だにトラウマだろうね。梶原がひとりでタックルに行っていたね。よく覚えているよ。
 何かの因縁だ。とにかく良い材料はまったくない。代表戦4戦連敗、ジンバブエとの練習マッチでも30分3本で1点も取れていない。イングランドとは好ゲームをしたと言っても、4年前はドイツと引き分けているからね。4年前のドイツはホームだったし、高原が切れていたからね。このところ岡崎は自信喪失、本田は口だけ、俊輔は不調、遠藤も好調からは遠い。何をやっても誰を出してもうまく行かないジャパン。そして、岡田武史の最初の頃のキャッチフレーズが「接近、展開、連続」でしょう!つまりラグビーじゃん。今の岡田武史の日本代表と95年のラグビーのジャパンが重なるように感じられるのは、ぼくだけじゃないだろうね。ブルームフォンテーンで大敗したラグビーの日本代表のキャッチフレーズは「タテタテヨコ」だったよね。結局、ほぼすべての時間、相手ボールだったので、「タテ」にも「ヨコ」にもボールが動かなかったね。日本にとって好材料は、カメルーンのアンカー、アレクサンドル・ソングが欠場するくらい。今シーズンのアーセナルのソングはすごかったからね。よかった。でも、エトーは出場でしょう。監督もルグエンだよ。今のフランス代表の監督を無理矢理続けているお馬鹿さんがもし辞めていたら、最右翼はルグエンだったはずだよね。リヨンをチャンピオンズリーグの常連にしたのは彼だよ。
 もう一回書くね。良い材料はまったくない、と。ルグエンも「われわれはすべての面で日本を上回っている」と言っている。事実だ!オランダ対デンマークが楽しみだね、と皮肉でも書けばいいのかな。

投稿者 umemoto youichi : 04:38 PM

juin 30, 2008

Be not afeard. The isle is full of noises,Sounds, and sweet airs, that give delight, and hurt not.

 この種の大会にありがちなことだが、スペイン対ドイツの決勝は、それほど面白いゲームではなかった。準決勝から中2〜3日の決勝。疲労が残り、怪我は癒えない。疲労がスキルの発揮を妨げ、走る距離を減退させる。バラックのキレのなさやシュヴァインシュタイガーの多くのトラップミス、そして後半はめっきり減ったドイツの中盤の飛び出し。トルコにようやく勝利を収め、決勝までたどり着いたドイツは、すでに「一杯」な感じ。対するスペインも、ゲーム開始直後はセナのスペースをめがけてドイツに走り込まれ、一気にバックラインを割られて、プジョルのおたおた守備が目立った。だが、気迫十分のトーレスの走り込みを起点にポゼッションが上がり始めると、中盤のボール回しが始まった。問題がないわけではない。イニエスタは好調を維持しているが、セスクは、シャビと並ぶとまた遠慮癖が出るし、シルバはポジショニングは良いが、シュートが浮いてしまう。ボールは回っても運動量が上がらず、ポジション・チェンジも頻繁ではない。しかし、そんな中でトーレスの一発が生まれ、結果的にこの虎の子の1点を守ってスペインが逃げ切る。
 終盤にドイツは背の高い選手を前戦に多く送り込んでパワープレーを試みるが、セナと後半にセスクから代わったシャビ・アロンソがクロスの出所を徹底して押さえ、有効なクロスが上がらないままタイムアップ。スペインの調子がもう少し良ければ3-0のゲームだった。
 
 スペインの優勝は価値あるものだ。決勝こそクワトロ・フゴーネスがどんどんスペースを生んでいく局面は作れなかったが、相手に合わせるというリアクション・フットボールからは遠い、「自分たちのフットボール」を貫いて勝利したことは賞賛に値する。考えてみれば、一番の分水嶺は、準々決勝の対イタリア戦。決勝よりも中盤が動かず、イタリアの神経戦にはまっていったが、イタリアの得点力のなさに助けられてPK戦に勝った。まだ若いチームだから、中盤の選手のメンタル面に大きく左右されるが、バルサとアーセナルのミッドフィールドを接ぎ木した中盤が動き始めると、本当にワクワクするようなフットボールが展開されていく。
 スペインの優勝が価値あるものなのは、前回の優勝がギリシャだったことを思い出せばいい。専守防衛のギリシャが優勝したのは、スペインとポルトガルの気候が暑すぎたことにも由来しているが、やはりフロック以外のなにものでもない。アタックして点を取って勝つことこそ勝者に相応しいということだ。その意味で、今回のスペインの優勝は2000年のユーロのフランスの優勝と同じように素晴らしいが、今回のスペインを2000年のフランスよりも評価できる点は、2000年のフランスが98年W杯の完成形だったのに対して、スペインの伸びシロがまだまだあるからだ。アラゴネス爺さんの後任であるデルボスケも、やり方としてアラゴネスと同じで、決して独自のフットボール感覚でチームを作るよりも、選手をゲームに「乗せていく」方だから、スペインはこのまま強くなっていくだろう。ただ、アラゴネス爺さんの「人知を越えた選手交代」(決勝に関してはごく普通だったが、それまでは、ゲスト解説の岡田武史ではないが、ぼくらも「なぜ?」というものが幾度となくあったが、結果は残した)がデルボスケに期待できるかどうかは分からない。とりあえずデルボスケが何もせず、「楽しんでこい」とか「ここで点を取れ」といった誰にでも出来る指示をチームに送れば、このチームはごく自然に成長を続けるはずだ。
 最後に、好ゲームが多かった今回のユーロで、残念だったことをふたつ。ひとつは、ポテンシャリティが一番あるはずのフランス代表が、何の創造性もないコーチを留任し続けて早々とピッチを去ったこと。ベストメンバーのフランスとオランダのゲームを見たかった。同時に、組み合わせの問題から、オランダ対スペインの真剣勝負が見られなかったこと。これは、ロシアのヒディンクに文句を言いたい。ロシアがオランダに勝たなければ、ぼくらは、もう一試合、すごいゲームを見られたかも知れない。

 ユーロ2008は終わったが、ウィンブルドンがもう始まっている。そして今週末は、ラグビーのテストマッチ、ワラビーズ対フランス、さらにトライネイションズも始まる。いやはや……。

投稿者 umemoto youichi : 09:00 AM

juin 27, 2008

If music be the food of love, play on

 やや押し気味のスペインだが、35分にFKを蹴ったビジャが怪我。そしてセスク、イン。4-1-3-2からトーレス1トップの4-1-4-1。セスクとシャビが並び立ってクワトロ・フゴーネス。ロシアのプレッシャーをあざ笑うようにボールが回り始める。まるでグループ・リーグ緒戦の再現を見ているようだ。プレスをかいくぐるをいう表現も正しくない。相手のプレスがないとボールが回らない。プレスに来させることで、スペースをこじ開け、そこに別の選手が走り、パサーも別の選手にプレスの重点が置かれると、スペースに走り、そこにボールが出てくる。このゲームもゲスト解説をした岡田武史──バーゼル、ウィーンと大活躍!──が数ヶ月前に「これからは俺のやり方でやる!」と日本代表監督としてマニフェストしたとき使った用語が「接近ー連続ー展開」だった。もともと故大西鐵之祐がラグビー日本代表の戦術として使用した言葉がそれで、議論を呼んだ。クワトロ・フゴーネスが織りなす連続するパスとスペースの創造を見ていると、一番ピッタリ来るのが、「接近ー連続ー展開」だった。中央でシャビばボールを持つとロシアのディフェンダーが「接近」する。タックルを交わす寸前に、シャビはセスクにボールを預けて「連続」。セスクはディフェンダーとの距離を測りつつ、右サイドを駆け上がるセルヒオ・ラモスに「展開」。ゲームは一気にスペイン・ペースになりポゼッションもグングン上がっていく。先取点もシャビーイニエスターシャビで見事にとった。もちろんトーレスとセスクがファーとニアに走り込んで、シャビのスペースを創ったことは言うまでもない。
 アラゴネス爺さんもさぞかし満足しているだろう。なにせ爺さんがやりたかったのは、こんなフットボールで、それが余りに見事に実現しているのだから。でも、爺さんは自分の目の当たりにした「接近ー連続ー展開」だけでは満足しない。ウチのチームは強いんだから、面子を代えてもこれができるんだ、見せてやるぞ!とばかりに、トーレスをグイサに、シャビをシャビ・アロンソに代える。これが69分。シャビは誰よりも走っていたから、ここでシャビ・アロンソを入れて、セナと一緒にやや後ろを任せようというのは分かる。それに先取点を決めて「ご苦労さん!」もあるだろう。でもフェルナンド・トーレスは好調だぜ! 確かにトーレスはシュートを3本連続して外したが、次は決めるだろうと誰でも思ったろう。それにトーレスとグイサを比べれば、やはりトーレスでしょう。でも爺さんは頑固だ。「ここはグイサなの!」と耳を貸さない。一挙にふたり代える決断に、岡田武史は、残り20分、キーパーが怪我でもしたらどうするんでしょうね、と言う。岡田武史、あんたの弱気はそこなんだよ、と突っ込みを入れたくなる。
 するとどうだろう。右サイドに開いたグイサから、ヴァイタルエリアのセスクにパス、セスクはディフェンダー3人が並ぶ裏へチップキックのようなパス、グイサが走り込んでループ。73分。これで勝負あり!あとはクワトロ・フゴーネスのスペクタキュレールで官能的なフットボールがぼくらのこころを捉え続けた。さらにセスクが溜めたところを今大会絶好調のシルバがドーンと一発たたき込んで、ヒディンクはもうタオルをピッチに投げ入れたくなったのではないか。82分。
 確かにプレミアを見慣れた目からすれば、グイサのおっとりした走りだと、すぐに身体を入れられるかもしれないが、ビジャやトーレスに貼り付いたロシア・ディフェンダーは、グイサが入るころには、もうボディに打たれ続けて疲労がたまり、グイサにも追いつかない時間帯だったのかもしれない。シャビ・アロンソの方は、1発いいシュートを打ったが、それ以外は、セナとバランスをとっていれば十分で、持てる力の10%程度を出して、決勝に備えることができた。ビジャの怪我の具合は分からないが、途中で代えられたフェルナンド・トーレスにしてみれば、決勝では俺がヒーローになってやる!と心に誓っているだろう。そして、このゲームの最大の成果は、セスクがようやく本領を発揮したことだ。この日のセスクは、シャビやイニエスタという「体育会の先輩」に遠慮しながら、気に入ってもらえるようにプレイする「後輩」ではなくて、まさにアーセナルというイギリスの名門大学に留学中の大器が留学の成果を遺憾なく発揮してくれた。つまり、このゲームに完勝するばかりか、決勝の対ドイツ戦の準備までしてしまった。シャビは、3日後にまた走れるだろう。トーレスは気迫十分だろう。シャビ・アロンソは、まだこれからだと決勝でミドルを狙うだろう。セスク・ファブレガスは、一番うまいのは僕だよ、と心から信じることができたろうし、こんなプレイを見せられては、アルセーヌ・ヴェンゲルも、「セスク、移籍か?」というニュースに何度も悩まされ続けることになるだろう。

投稿者 umemoto youichi : 10:17 AM

juin 26, 2008

Glory is like a circle in the water

 トルコ代表監督ファティ・テリムが今大会語辞任すると発表した。ロシアと共にユーロ2008で旋風を巻き起こしたのはトルコだ。ナンバー誌でサイモン・クーパーが語るとおり、ユーロではどのチームが勝ってもおかしくない。グループリーグを突破することさえ困難だろうと思われたトルコが、チェコからラスト10分で3点を奪って逆転してグループリーグを勝ち上がり、ベスト8からは、クロアチアに延長ロスタイムで追いついてPK戦でうっちゃった。
 思い出してみれば日韓共催W杯では3位になり、今年のチャンピオンズリーグではフェネルバフッチェがいいところまで行った。今日のドイツ戦だって、ほとんど引き分けに近くまでいって、最後に、いわゆる「ゲルマン魂」にやられただけで、ゲームそのものはトルコが支配していたと書いてもまちがいではなかろう。だが、このチームは決して淡泊なチームではなく、これといった特長はないが、最後まで気を抜かない頑張るチームだった。こういうチームは、この種の大会にとても強いことは歴史が証明している。
 動画サイトで、この大会について語っているアルセーヌ・ヴェンゲルのインタヴューを見た。日頃のアーセナルでのゲーム運びとは異なることを言っていた。「こういう大会になるとヒーローが必要になる」。トルコが準決勝ですんでの所で敗れたのは、ヴェンゲルが言うヒーローがいなかったせいだろう。ヒーローになるはずのニハトを怪我で欠くばかりか、怪我人や出場停止を含めれば8名を欠いたトルコが、ここまで来られたのは、常にガッツを見せ続けるファティ・テリムの力だろうし、それまでの戦いぶりから諦めることをしなかったトルコのチームのメンタリティの強さだ。だから、あえてこのチームのヒーローを探すとすれば、それは明らかにファティ・テリムその人だ。
 2000年のUEFAカップ決勝でアーセナルを敗ったのが、当時テリムが監督だったガラタサライだったし、その後は、ルイ・コスタを擁したフィオレンティーナの監督をつとめ、ミランの監督もやった。
 監督と言えば、このゲームの中継のゲスト解説は岡田武史だった。彼もフットボールがとても好きそうだ。日本代表監督の彼はいつも苦虫を噛み潰したような顔でインタヴューに答えているが、代表監督の岡田にもフットボール好きの岡田であって欲しいものだ。
 そして最後の栄光をつかむチャンスを得たのはドイツ。

投稿者 umemoto youichi : 11:07 PM

juin 24, 2008

I know it is the sun that shines so bright.

 PK戦でようやくスペインがベスト4に残った。
 3戦連続失望の結果が続き、フットボールの誘惑などと呑気で脳天気なことをほざくな、この大会もまたビッグマネーの投資先なのだ、君が見ているこの番組にしても大きな金銭が動くことでやっと成立している、現実を見なよ、スポーツが新たな快楽を運んでくれるなんて夢みたいことを考えている暇に、この大会に絡む経済システム──そう、フォーメーションなんてことじゃなくて──について考える方が身のためだよ、そんなメフィストの囁きにも耳を貸したくなった。やっぱりイタリアの現実主義がいつも勝利を収めるものさ……。
 カシージャスの好セイヴを見てレイナが泣いている。途中で交代したフェルナンド・トーレスが、両手を組んで祈っている。セスクの番が来た。アラゴネス爺さんがスペインの5番目に指名したのは、フランセスク・ファブレガス。弱冠21歳のアーセナルのセントラル・ミッドフィールダーに、スペインの命運を託した。スタジアムにはアルセーヌ・ヴェンゲルとジダンが仲良く座って観戦している。緊張した面持ちのセスクがボールをプレースし、ゆっくりと後退する。ボールはブフォンが飛んだ方向とは反対のゴールネット右下に突き刺さった。歓喜の時が訪れる。
 PK戦までの120分、スペインの出来は決して誉められるものではなかった。確かにボールはミッドフィールドを回るが、どれもスタンディング・パスばかりで、どのパスも、そこにすでにいる選手の足下に届けられ、未知の空間を創造したりはしない。偶に前方に押し出されるスルー・パスもイタリアの老練ディフェンダーを混乱させるものではない。ビジャもトーレスも、そして代わって入ったグイサにしても局面に変化をもたらすことは出来ない。幸い、トーニもずっと不調をキープしていて(ブンデスリーガを見ないぼくは、この人の好調な姿を見たことがない)、イタリアも点が入りそうにない。ずっと膠着状態のままの120分。誰もこの凍り付いた時間を切り裂く勇気を持った人はいなかった。もっと緊張するPK戦の時間を迎えることを知りつつも、この時間に亀裂を入れることもできない。退屈な緊張感が、突然夏がきたウィーンを包み込んでいるようだった。スペインにとっての凶日6月22日、それが今大会でも繰り返され、良いチームだったが勝負には弱い、という常套句が今年もこのチームに与えられそうになる土壇場で、いつものようにシャビに代わってピッチに立ち、特段活躍したわけでもないセスクの右足がこの凍り付いた時間にピリオドを打ってくれた。
 イタリアではなくスペインがベスト4に残ったことは重要だ。ポルトガルがかつて持っていた輝きを見せることなくピッチを去り、若いカリスマ的な指導者を持つクロアチアが土壇場で涙を呑み、ファンタスティックなフットボールという束の間の夢をぼくらに与えてくれたオランダが、当初から指摘されていた弱点を露呈させてファンバステン時代を終わらせてしまった後、スペインは、とりあえずぼくらにとって唯一の希望だった。だが、メフィストの囁きを聞く限り、この「無敵艦隊」にまつわるジンクスを知る限り、さらに声を張り上げるアラゴネス爺さん──この爺さんもフィリッポンと同じようにちゃっかり再就職先を決めている──の顔を見る限り、その希望の実現も見果てぬ夢と終わるかと思われた。イタリアは、計算通り(?)PK戦に持ち込み、フットボールの質がどうのこうのという問題を超越した時間に勝敗を棚上げすることに成功した。
 しかし、スペインの若きミッドフィールダーたちと、このゲームでは動物になりきれなかったダヴィド・ビジャが、メフィストにもジンクスにもリアリズムにも耳を貸さず、フットボールのために、長短のパスが瞬時に生み出す未知の空間のために、そして、もっとこの季節にぼくらのフットボールをしたいという欲望のために、次のゲームが出来る喜びのために、この停滞した時間を終わらせてくれた。素直に喜びたい。 

投稿者 umemoto youichi : 12:29 AM

juin 22, 2008

What's this, what's this? Is this her fault or mine?

 オランダの敗因を考えている。一昨日のポルトガル、昨日のクロアチア、そして今日、オランダ、予想はしないことにしているが、それでもフットボールのために次に勝ち進んで欲しいチームが次々に敗れている。だが、それまでのゲームは実力的にまあどっちが勝ってもおかしくはなかったが、ロシアの進化はカッコに入れ、ヒディンク・マジックもカッコも入れても、グループリーグのオランダほどフットボールの興奮を感じさせてくれたチームはなかった。スナイデルのアーティスティックなゴール、ロッベンの疾走、エンヘラールとデヨンクの渋い守り……。イタリア、フランスを撃破した衝撃は本当に大きかった。ほとんどがロシア・リーグで活動している選手ばかりのロシアに、このオランダは「格」から言って負けてはいけない。
 だが、この対ロシア戦。輝きはまったく失せていた。すべての面でロシアが上回った。アルシャフィンやパヴリュチェンコばかりではなく、全員がすごく頑張った。延長戦を見る限り、誠実に戦ったのはまちがいなくロシアだった。足が止まったオランダを見ていると、コンディショニングのミスかとも思えたが、一流のプロのフットボーラーたちが自らのコンディションに責任を持つのが当たり前だろう。ブーラルーズの娘の死やアリエン・ロッベンの股関節の怪我(どうして彼を使わなかったのかを調べたら、ロッベンのインタヴュー記事があった。このショックは尾を引く、と彼は語っていた)という原因もあるだろう。だが、ロッベンはイタリア戦には出場できなかったが、オランダは完勝した。ピークをグループリーグに持って行き、ルーマニア戦からこのチームは下降線上にあり、しかも「Bチーム」で戦ったから、モティヴェーションが下がったのだ。いろいろな論評があった。どれも、そうかもしれないと思うが、あの輝きが消えた原因のすべてだとは思えない。
 もしヒディンク・マジックが輝きを消したのなら、ロシアの戦術を分析すればいいのだが、ゲームを見る限り、ロシアは普通に戦って普通に勝っている。つまり、オランダの輝きは一瞬も見られなかった。それでも、このゲームは延長に入ったのだから紙一重の差だった。つまり、オランダは、ごく普通のチームになり、そういうチームは勝ったり負けたりする。もしオランダが普通のチームだとしたら、このゲームの敗因は何よりもセンターバックのふたりの弱さに原因を求めればいいだろう。ラインコントロールもままならず、相手にスペースを与えてしまえば、ゲームにはごく自然に負ける。それまでのゲームではあまりにファンタスティックにオランダが点を取ってしまうから、相手が意気消沈していく様子が分かった。
 オランダの輝きはやはり初夏の花火のように一瞬のものだったのだろう。セレクション・チームは、なかなか「チーム」にならず、ばらばらな個人を統合するのに時間がかかるものだが、オランダの輝きがもっと続いて欲しかったのは、ぼくらがクライフやニースケンスのいたオランダを知っているからだからだろう。そして、忘れてはいけないのは、あの輝きが続いたオランダには、彼らの他にもクーマンもいた。もちろん3-4-3の当時のバックラインと4-2-3-1の今とは比較できないが、オーイヤー、マイタイセンでは比較にならないことは明らかだ。もうひとつ、今のオランダには、劣勢になったときチームを鼓舞するリーダーがいない。ミッドフィールダーは若く、バックラインは心許ない。ファンデルサールは後ろにいすぎる。若者たちがゲームに「乗れ」ば強いが、少しでも劣勢になるとそれをはね返す力がないということだし、紙一重のゲームを勝ちきるにはやはり経験が必要だ。

投稿者 umemoto youichi : 11:40 PM

juin 21, 2008

Et tu, Brute?-- Then fall, Caesar!

 それがフットボールさ。そんな常套句をいったい何度聞いたことだろう。ドーハの悲劇直後のハンス・オフト、やはりアメリカ大会出場権をどたんばで逃したフランス代表監督だったジェラール・ウイエ……。そして2004年の中国の猛暑の中で延長戦を何度も戦ったジーコと日本代表。そして今朝は、クロアチアのヘッドコーチ、ビリッチもそう言うかも知れないし、ぼくらもそう思った。
 昨日も今日も下馬評では有利なチームが散っていく。昨日のポルトガルは、ドイツのフットボールがポルトガルを凌駕していたから仕方がないが、今日のクロアチアは、延長後半の14分にクロアチアが先取点をあげ、ロスタイムが2分経過したこところで、トルコが同点ゴール。そしてPK戦を制した。それまでは順風満帆のクロアチア。グループリーグを何の問題もなく突破し、3戦目には主力を温存した。一方のトルコはチェコをどたんばでうっちゃりようやくここに駒を進めた。誰だって、クロアチア優勢は疑わないだろう。しかし結果はトルコの勝利。しかも劇的な形での。こういうことは滅多に起きないのだが、実は何度も何度も起きるのだ。
 引き分けありのグループリーグのゲームから決勝トーナメントのノックアウト・システムになると、延長戦、PK戦で次に進むチームを決めることになるのだから、何度も起きるのは当たり前だし、システムとしてすでにこのような結末を内包している。
 でも延長後半10分ぐらいまでゲームは面白くなかった。ウィーンの蒸し暑さが原因だろう。ピッチサイドの両監督の白いシャツには汗が滲んでいた。選手たちは身体もアタマも動かなくなっていったはずだ。組み立ても戦術もどうでもよくなり、選手たちは本能的に相手ゴールを目指すだけだ。
 明日のオランダ対ロシア戦で、フース・ヒディンクが目指すのは、徹底した塹壕戦かもしれない。アタックは諦めて、自陣に籠もり、オランダを疲れさせておいて、アタックに倦怠した時間帯を狙って総攻撃をかける。ファンバステンと若きオランダが、そうしたネガティヴなゲームプランを叩きつぶすためには、前半の入りからフルアタックをかけて、前半のうちに勝負を決めてしまうことだ。今日のトルコ対クロアチアのゲームも面白くはあるのだが、それはもっぱら勝敗に関わる面白さであって、決勝トーナメントというシステムに関わる面白さであって、フットボールそのものの快楽とは異なる。今大会の星であるオランダには、小学生のトーナメントから起こりうる、そうした勝敗に関わるサスペンスとは無関係な、フットボールそのものに属する快感を謳歌しながら、古狸率いるロシアを撃破してほしい。

投稿者 umemoto youichi : 11:45 PM

juin 20, 2008

I know thee not, old man. Fall to thy prayers.

 点数こそ3-2だが、内容はドイツの完勝だった。前回のユーロ決勝でギリシャに敗れて涙を流していたロナウドも、今回は涙も出なかったろう。スポーツ雑誌の表紙の多くを彼が飾ったが、大した見せ場を作ることなく大会を終えた。
 ドイツの勝因は、ポルトガルの長所を消して、ドイツの長所を生かしたことだ。ポルトガルの長所はミッドフィールドでの展開力で、ドイツの長所は高さと誠実さ。ドイツは人数をかけてポルトガルのミッドフィールドを消してボールをサイドに追い込み、セットプレーで先手をとって、ポルトガルのセンターバックの背後で勝負した。大した戦術ではないけれど、ゲーム全体を見渡せば、ポルトガルで光ったのはデコひとりだった。前回ならルイ・コスタもフィーゴもまだ短い時間なら十分にその力を見せることができたが、今回のポルトガルは彼らのスタイルを見せることなくピッチから去った。フィリッポンは、ロナウドやナニが活躍するマンUのやり方を見たろうが、やはりロナウドのワントップにする勇気がなかったようだ。中央をケアし、ポルトガルをサイドに追い出せば、そこから上がるはずのクロスにドイツは十二分に対応できる。そして人数をかけたミッドフィールドでは、チェルシーで開眼したバラックとクロアチア戦のレッドで責任を感じたシュヴァインシュタイガーが労を惜しまず走り回るはずだ。
 センターバックふたりの動きの鈍さから2点を失ったが、それでもドイツは常にゲームをリードする展開を保つことが出来た。ドイツの1点目は本当に綺麗なゴールだったし、クローゼの2点目もバラックの3点目は、ポルトガルのセンターバックを外して上がったクロスからのヘッドだから、体力勝負でドイツが勝てる。
 ポルトガルの敗因は何か? フィリッポンの慢心? もう就職が決まっているから、このゲームに賭ける気合いの小ささ? それもあるだろうが、単にもうポルトガルが強くはないからだ。ヌーノ・ゴメス、ポスティガといったセンターFWは、どう見ても二流。シモンもスピードがなくなった。いくらデコが獅子奮迅の活躍を見せても、ミッドフィールド全域をカヴァーすることはできない。以前ならポケットビリヤードのように短いパスが連続して繋がっていたポルトガルのミッドフィールドは、もう存在しなかった。ルナウドを献身的に活かすルーニーも、意表をつくアタックを試みるスコールズやハーグリーヴズもポルトガルにはいないということだ。グループリーグを楽に勝ち上がったポルトガルにはセミファイナルに残る資格が最初からなかったような気もする。

投稿者 umemoto youichi : 10:53 PM

juin 19, 2008

Disguise, I see thou art a wickedness

  ロシア対スウェーデン戦を見る。おそらくスウェーデンが勝つだろうと思っていたが、フース・ヒディンクは、やはり狸だ。おそらく力の差のあるスペインに対しては完全に死んだふりをし、ギリシャとスウェーデンには全力投球。そして、ベスト8に最後の名乗りを上げた。
 ズラタンとラーションの2トップは、ユーロの中でも悪くないし、その背後をユングベリが走り回れば、ナイーヴなロシアは崩れると誰でもが思ったろうし、ぼくだって例外ではない。だが、冷静に見れば、大男中心のこのチームには、伝統的な意味でのパサーが不在だ。中盤をつくりながら相手を崩していくのではなく、ロングボールを放り込んで、ズラタンとラーションに「ふたりで何とかしろよ」という戦いぶりなのだ。ヘッドでも足下でもオッケーな2トップは、確かに小柄なスペインのディフェンダー陣には、それなりに脅威だったろうが、同じような大男がいるロシアなら、盛りを過ぎたラーションと好調ではないズラタンなら、勝負になるだろう。それに2列目の押し上げによって、アタックに焦点を絞らせないといった工夫もスウェーデンには縁がない。真ん中に開いた空間に人員を増やし、中盤を制して、ポゼッションを上げ、さらにロングボールに対してはユングベリに走り勝ってセカンドボールを徹底して拾っていく。そしてカウンター。ヒディンクの作戦はおそらくそんな感じだったろう。実際のゲームもその通りになった。
 これでベスト8の組み合わせが決まった。ポルトガル対ドイツ、クロアチア対トルコ、スペイン対イタリア、オランダ対ロシア。予想? 一発勝負なので、本当に分からない。ここからはPK戦もあることだし……。ある程度過密日程なので、選手たちの疲労が気になるが、左側に書いたチームは、グループリーグの3戦目をサブメンバーを多く出して戦っているのは強みだ。常識的な見解に過ぎないけれど。右側のチームは、3戦目が一杯一杯だったように見える。予想するより応援だ。応援しているのはスペインとオランダ。ピルロのいないイタリアを下し、ヒディンク・マジックなど気にしなければ、この両チームが準決勝で相まみえる。

投稿者 umemoto youichi : 11:57 PM

juin 18, 2008

The odds is gone,And there is nothing left remarkable

「死のグループ」が終わった。熱戦に次ぐ熱戦を期待していたが、終わってみれば、好ゲームだったのは、ルーマニアの誠実さは記憶に残りはするものの、オランダがらみのゲームだけで、結局、ベスト8に進出することになったイタリアも、そして、最終的に1分2敗という惨敗に終わったフランスも、フットボールに貢献する瞬間をまったく見せることができなかった。すでに「死に体」だったチームが醜い姿を晒しただけだ。
 まず勝ち残ることになったイタリアについて。対フランス戦を勝利に終えることができたのも、まったくの偶然だ。ルカ・トーニはただの木偶の坊に過ぎないことが誰の目に明らかになった。まだそれでもときおり煌めきを見せないではないピルロを除いて、他の選手たちはもう盛りをずっと前に終えてしまった「昔の名前」に過ぎないことを白日の下に晒した。アビダルがトー二を倒して得たPKもデ・ロッシのFKがアンリに当たって方向が変わったのも、リベリの怪我もアクシデンタルなものでしかない。カンナヴァロが怪我をすれば守備陣が崩壊し、ガットゥーゾやアンブロジーニが歳をとれば中盤の速度はなくなる。すでにこのチームにインザーギのような職人はいない。そして「誰もいなくなった」。結果だけが残っている。
 帰国の途につくフランスについて。この国のフットボーラー育成の方法については議論する必要がない。各国リーグを見ていればこの国が豊かな才能を生み出すのに長けていることなど誰にでも分かるだろう。センターバックではローマのメクサス、サイドバックではアーセナルのクリッシとサニャ、そしてミッドフィールドにはリベリとフラミニ、そこにアーセナル入りが噂されているナスリを初めとする87年世代が加わる。だが、25歳ぐらいのちょうど素晴らしい年齢を迎えた選手の何人がこのチームに選ばれているのか? 98年の黄金の世代とそれ以後との実力差が大きすぎるという批判はまったく当たっていない。人材の宝庫なのに、その人材が活用されていない。マケレレやテュラムは犠牲者だ。特にこのゲームを代表の最後のゲームと自ら考えていたテュラムは、アビダルがレッドを喰らっても出場機会は与えられなかった。つまりすべては「セレクショナー」の責任だ。さっき選ばれなかった選手たちの氏名を書き連ねて、彼らが出場し、「コーチ」から適切な指示を受けた場合、対オランダ戦でどんなゲームを見せてくれたかを想像せずにはいられない。GKのクペ、バックラインは右からサニャ、メクサス、ギャラス、クリッシ、ミッドフィールドはジュリ、ナスリ、フラミニ、リベリ、2トップにベンゼマ、そしてアンリ……。両翼の速度はオランダよりも速いはずだ。このメンバーならユーロ優勝も狙えたろう。もし敗れたとしても、2010年のために大きな財産になる時間を若い選手たちに与えてくれたはずだ。
 今朝からずっとレーモン・ドメネクと伴侶であるスポーツジャーナリストのエステル・ドゥニ(美形!)のことを調べているが、かつてピレスやジュリがこのチームに選ばれなかったのは、ドメネクの恋敵だったからだ、というブログを読んだ。98年世代のひとりヴィセンテ・リザラズは、これでディディエ・デシャンの番だ、と語っている。ロジェ・ルメールが去り、ジャック・サンティニが去ったとき、次はデシャンだ、ローラン・ブランだと言われたが、ダークホースのドメネクをエメ・ジャケが支持したときからすべての失敗が始まっている。ずっと前からデシャンとブランの番だったのだ。
 オランダ。ファンバステンのやり方はドメネクの対極にある。カイト、ファンデルファールト、スナイデルにゲームの仕切を任せ、ファンニステルローイには好きにやらせることでレアルでの彼の好調を維持し、切り札にロッベンとファンペルシ、副産物としての大いなる発見にエンヘラール。この日のルーマニア戦は、店晒しの選手起用だったが、ゲームを見ると、全員が俺は店晒し要員なんかではない、俺たちがプレーするのを見て欲しい!とばかりの全力投球!戦術を与え、選手交代にセレクショナーとしてのゲームを読む力を見せつけ、そして絶対的な勝利をたぐり寄せるファンバステンは本当に見事だった。特にルーマニア戦はポゼッションが8割近くになったがなかなか点の入らない「いつものオランダ」も垣間見えたが、エンヘラール→ファンペルシのラインを何度も辛抱強く試み、このゲームの完勝している。観客席のクライフも満足しているだろう。

*このコーナーのタイトルはどれもシェイクスピアからの引用です。

投稿者 umemoto youichi : 11:08 PM