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juin 27, 2008

If music be the food of love, play on

 やや押し気味のスペインだが、35分にFKを蹴ったビジャが怪我。そしてセスク、イン。4-1-3-2からトーレス1トップの4-1-4-1。セスクとシャビが並び立ってクワトロ・フゴーネス。ロシアのプレッシャーをあざ笑うようにボールが回り始める。まるでグループ・リーグ緒戦の再現を見ているようだ。プレスをかいくぐるをいう表現も正しくない。相手のプレスがないとボールが回らない。プレスに来させることで、スペースをこじ開け、そこに別の選手が走り、パサーも別の選手にプレスの重点が置かれると、スペースに走り、そこにボールが出てくる。このゲームもゲスト解説をした岡田武史──バーゼル、ウィーンと大活躍!──が数ヶ月前に「これからは俺のやり方でやる!」と日本代表監督としてマニフェストしたとき使った用語が「接近ー連続ー展開」だった。もともと故大西鐵之祐がラグビー日本代表の戦術として使用した言葉がそれで、議論を呼んだ。クワトロ・フゴーネスが織りなす連続するパスとスペースの創造を見ていると、一番ピッタリ来るのが、「接近ー連続ー展開」だった。中央でシャビばボールを持つとロシアのディフェンダーが「接近」する。タックルを交わす寸前に、シャビはセスクにボールを預けて「連続」。セスクはディフェンダーとの距離を測りつつ、右サイドを駆け上がるセルヒオ・ラモスに「展開」。ゲームは一気にスペイン・ペースになりポゼッションもグングン上がっていく。先取点もシャビーイニエスターシャビで見事にとった。もちろんトーレスとセスクがファーとニアに走り込んで、シャビのスペースを創ったことは言うまでもない。
 アラゴネス爺さんもさぞかし満足しているだろう。なにせ爺さんがやりたかったのは、こんなフットボールで、それが余りに見事に実現しているのだから。でも、爺さんは自分の目の当たりにした「接近ー連続ー展開」だけでは満足しない。ウチのチームは強いんだから、面子を代えてもこれができるんだ、見せてやるぞ!とばかりに、トーレスをグイサに、シャビをシャビ・アロンソに代える。これが69分。シャビは誰よりも走っていたから、ここでシャビ・アロンソを入れて、セナと一緒にやや後ろを任せようというのは分かる。それに先取点を決めて「ご苦労さん!」もあるだろう。でもフェルナンド・トーレスは好調だぜ! 確かにトーレスはシュートを3本連続して外したが、次は決めるだろうと誰でも思ったろう。それにトーレスとグイサを比べれば、やはりトーレスでしょう。でも爺さんは頑固だ。「ここはグイサなの!」と耳を貸さない。一挙にふたり代える決断に、岡田武史は、残り20分、キーパーが怪我でもしたらどうするんでしょうね、と言う。岡田武史、あんたの弱気はそこなんだよ、と突っ込みを入れたくなる。
 するとどうだろう。右サイドに開いたグイサから、ヴァイタルエリアのセスクにパス、セスクはディフェンダー3人が並ぶ裏へチップキックのようなパス、グイサが走り込んでループ。73分。これで勝負あり!あとはクワトロ・フゴーネスのスペクタキュレールで官能的なフットボールがぼくらのこころを捉え続けた。さらにセスクが溜めたところを今大会絶好調のシルバがドーンと一発たたき込んで、ヒディンクはもうタオルをピッチに投げ入れたくなったのではないか。82分。
 確かにプレミアを見慣れた目からすれば、グイサのおっとりした走りだと、すぐに身体を入れられるかもしれないが、ビジャやトーレスに貼り付いたロシア・ディフェンダーは、グイサが入るころには、もうボディに打たれ続けて疲労がたまり、グイサにも追いつかない時間帯だったのかもしれない。シャビ・アロンソの方は、1発いいシュートを打ったが、それ以外は、セナとバランスをとっていれば十分で、持てる力の10%程度を出して、決勝に備えることができた。ビジャの怪我の具合は分からないが、途中で代えられたフェルナンド・トーレスにしてみれば、決勝では俺がヒーローになってやる!と心に誓っているだろう。そして、このゲームの最大の成果は、セスクがようやく本領を発揮したことだ。この日のセスクは、シャビやイニエスタという「体育会の先輩」に遠慮しながら、気に入ってもらえるようにプレイする「後輩」ではなくて、まさにアーセナルというイギリスの名門大学に留学中の大器が留学の成果を遺憾なく発揮してくれた。つまり、このゲームに完勝するばかりか、決勝の対ドイツ戦の準備までしてしまった。シャビは、3日後にまた走れるだろう。トーレスは気迫十分だろう。シャビ・アロンソは、まだこれからだと決勝でミドルを狙うだろう。セスク・ファブレガスは、一番うまいのは僕だよ、と心から信じることができたろうし、こんなプレイを見せられては、アルセーヌ・ヴェンゲルも、「セスク、移籍か?」というニュースに何度も悩まされ続けることになるだろう。

投稿者 umemoto youichi : juin 27, 2008 10:17 AM