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July 4, 2005

2005年7月4日

筋肉で盛り上がった太い腕を所在なくふり回し、荒々しい鼻息をたてるこの強そうな男は、どうやらかなりイライラしているようだ。挨拶をして顔を上げると、同時に男の舌打ちが耳をつく。アルコールのにおいがする。私は耐えかねて声をかける。「すいません……あの、怒ってます?」ずいぶん不躾な質問になってしまう。とにかくストレスをあらわにする彼が、本能的に恐くて仕方ない。「ちょっと上司ともめてね。会社辞めてやるって、飛び出してきてやったよ!」彼の声は薄暗いルームには不自然に大きい。しかも、けんかして飛び出してくるなんて。私は彼の膝に手を乗せる。なるべくそっと、口を開く。「……大丈夫?」「大丈夫!? なわけないじゃん。だからこんなとこきてんじゃん!!」彼は再び腕を振り回し、またひとつ舌打ちをする。ふくれあがった怒りのエネルギーが、今にも破裂しそうなのを、必死で押さえている、そんな感じに見える。まさか、彼は私にがっついて、そのうっぷんを晴らすつもりなのではないか。脳裏に不安がよぎる。「……そんな記念すべき日に来てくださってありがとうございます。とにかく、ゆっくり体ほぐしていきましょうね」。
私は彼をマットの上に寝かせる。顔にタオルを乗せ、ぎゅっと親指をおでこに押し当てていく。これから性感に入るまでの間、彼のために、つまり自分自身の安全のために、私はできるだけ彼のイライラを沈めなければならない。しかし一見無謀すぎるような行動をとった彼に、かける言葉が見つからない。「……」。思わず黙り込むと、彼がため息をつく。とにかくなにか話さなくてはいけない。「なんかずっと、納得いかないことで不満がたまってたんですか?」「いや、そういうのじゃないんだ。今回の企画の話でもめてね」「無茶な仕事を押し付けられたとか?」「いや、企画について意見したら、お前は間違ってるって一方的に否定されたんだよ」「でも上司の人に、言いたいことが言える関係っていいですよね」「違う。やめてやるって、書類投げつけたら、向こうも受け取ったしね」「……お互い酔っぱらってたんです?」「俺は酔っぱらってたよ。相手が冷静だったから、よけい腹が立つんだよ」。励まそうとして繰り返す質問から、少しずつ彼の陥った状況が見えてくる。まず否定形で返事をする彼の言葉は少し威圧的だが、でも抜き差しならない状況にはまって、無謀な風穴を開けざるを得なかった彼のやるせなさが、私にも痛いほど伝わってくる。彼の今後に口は出せないが、ストレスだけは置いて帰ってほしいと、心から思えてくる。話題は好きなお酒、おいしいラーメン屋さんへと次第にそれていく。彼も私も饒舌になる。
性感タイムに入る。私は笑顔で彼を見つめ、乳首をなめ、腕に頭を寄せて彼の背中へと自分の腕を回す。最初の彼とは対照的に覇気のないおちんちんは、いじりまわすと固くなり、そうかと思うとまたすぐに萎えるの繰り返しだ。「……飲みすぎちゃったんだよ」。彼は申し訳なさそうに私の手を制止する。「だめです」。私はにっこりと彼に笑いかけ、今度は彼の足にまたがる。玉をいじりながら同時におちんちんをしごく。上から唾をたらす。しかし玉にもおちんちんにも張りはでてこない。時間ばかりが過ぎていく。「……飲みすぎちゃったんだよ」。彼が再び同じ言葉を繰り返す。「ね?」彼の手が私の手に触れる。私はじっと彼を見つめる。時間も予定を過ぎてしまっている。「……じゃぁ、お家に帰ったら、思い出して自分でちゃんとオナニーしてくれます?」彼は身を起こして私に近づく。「もちろんだよ! オナニーしたらそんなのすぐだよ!!」大きな体を縮こまらせてだだっ子をあやすように私を覗き込む彼はすごくかわいい。私はちょっと笑って、彼のおちんちんから手を離す。
帰り際、彼はゆったりと落ち着いて私にこうつぶやく。「今日はありがとう。癒されたよ。また絶対指名するからね」。私も彼の言葉に応える。「うれしいです。いつでもお待ちしていますね」。
部屋を彼が出て行く。仕事を投げてしまった彼の脳裏は、明日への不安でいっぱいで本当はオナニーする余裕などない。私も、決して安くはないこのお店で、彼は二度と私を指名しない、というよりできないだろうと思っていながら、部屋の扉を閉めるのだ。

投稿者 nobodymag : July 4, 2005 5:37 PM