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October 14, 2005

2005年10月14日

毎週お店に足を運んでいた男が、数ヶ月前から突然来なくなっていた。それまで当然のように顔を合わせていた彼の不在に、私は戸惑いを隠せないでいた。彼の予約するいつもの曜日、いつもの時間に同じように予約が入ると、彼ではないかと推し量り、ルームの扉を開け相手がその男でないことを確認すると、彼のために用意していたいくつかの言葉をのど元で飲み込み、焦って目の前に立つ男用の言葉を新たに用意することを、私は幾度となく繰り返した。やがてそれにも慣れてくると、本名や出身地や将来の夢など一切私に尋ねないで、源氏名の私を心の恋人と勝手に呼んで店内デートを繰り返していた彼の存在が、「風俗嬢」を続けたい私にとって想像以上に重要な栄養素となっていたことに気がつき始めた。独占欲の強い彼にとってはある意味で不本意なことではあるだろうが。とにかく私がいくら思いあぐねても、ふたりの再会を決めるのは彼の方と決まっている。
さて今日、彼がケロリとお店にやってきて、ついに私は彼との再会を果たした。私は彼を見るなり声を上げた。「あー来た!……お久しぶりです」すると彼は言葉を返した。「ほんとごめん。いろいろすごい忙しくって」あきらめた頃に思いがけなくやってきたこの機会に、私はどうやって対処をすればいいのかわからなかった。彼が来なかったことを攻めるべきか、彼が来たことを喜ぶべきか、彼の不在に感じた自分の思いを伝えるべきか、何事もなかったように普通に彼に接するべきか、いくつかの思いが私と彼を規定する様々な位相で絡まり、私は言葉を失ってしまった。「……とりあえずお洋服脱ぎましょうね」お店で決められた作業にそうことで私はなんとかこの危機を切り抜けた。マッサージの間私たちは、何か話そうとして譲り合う、ありがちでたどたどしい会話を交わした。ひどく居心地が悪かった。それは懐かしい親友に久しぶりに会う感覚と似ていた。ぎこちない空気は裸の付き合いが解消してくれるだろう。私は楽観的にそう思って、ナース服のジッパーをおろした。彼の背中にパウダーを降りまいた。性感タイムに入ったというのに、彼はまださっきの会話を続けていた。彼はとても繊細なおちんちんの持ち主で、気分が少しでもそれるとそれは勃起していてもすぐ萎えてしまうことを、私は過去の経験から知っていた。私は彼の射精をこれから始まるあらゆる行為と会話の目標に据えた。私は彼の言葉に小さくうなずくと、彼の背中に指を這わせた。会話は止まったものの、敏感なはずの彼の背中は無反応だった。「四つん這いになってください」彼は素直に私の言葉に従ったが、しかしおちんちんは小さくしぼんだままだった。「……仰向けになってください」彼は頭を横にして身体を表に向けた。彼のおちんちんにローションを垂らすという自分の行為が、妙に大胆なものに思えてきた。私は彼の腕に横になった。彼のお気に入りの体勢だ。「なんだか恥ずかしいですね」私のこぼす弱音に彼も同意した。しかし私の手の動きに彼のおちんちんは律儀に反応してくれた。ふたりの間で慣習化されていた身体の動きに無言で身を任せ、ついに私たちはそのおちんちんに絶頂をもたらすことに成功した。無理矢理に仮設の収まりどころにこじつけたかっこうだ。結局最後まで続いたこの違和感を言葉にして彼に伝えよう、私は遂に口を開きかけると、彼が同じタイミングで先に言葉を吐いた。「ずっと来れなかった時、来れないだけじゃなくて来れないことを伝えられないことも嫌だったんだよね」彼は私の連絡先を聞こうとしているのだ、私はすぐさまそう思った。新たな展開だ。しかし彼はすぐに言葉を続けた。「だから来ました。なんちゃって、へへへ」それは彼の宣戦布告だった。小さなレンタルルームの中で、「風俗嬢」と「心の恋人」の間で揺れる私と、「心の恋人」と「客」の間で揺れる彼との、恋人ゲームはまだ続くのだ。

投稿者 nobodymag : 8:52 AM