カンヌ国際映画祭報告2012 vol.05 5月21日(月)

数日雨が続いていたけれど、今日も引き続き雨模様。風も強くまさに最悪の天候だ。1本目は、Salle soixantiemeで、かなり評判のよいミヒャエル・ハネケ『L'amour』を。この劇場は、プレスのレベルに関係なくギリギリまで優先的に入場できるのでかなり効率よく作品を見れる。他の劇場はプレス上映だとしても、一時間は待たないといけない。入れても、スクリーンの端切れてて見えねーよ!という場所にしか座れないのだ……。

エマニュエル・リヴァ、ジャン=ルイ・トランティニヤンを迎えて、老介護問題をかなりシンプルに捉えた作品。淡々とした日常風景の中で変わっていく妻の姿が痛々しい。ハネケ作品は苦手だが、『L'amour』では、彼の作品の特徴である暴力性が目に見える形では現れない。エマニュエル・エヴァの演技には改めて脱帽したし、素晴らしい作品ではあるが、これがパルムドールを穫ってしまうのは少々つまらない気もする。

2本目もコンペ。トマス・ウィンターベア『The Hunt』。小児性愛者の冤罪をかけられた男の日常が破綻していくという筋書き。コンペティション作品をすべて見たわけではないが、今年は、全体的に小さな共同体における亀裂、混乱を描いた作品が多い。その閉塞感に留まってしまい、そこからなかなか外に開かれていかない。降りかかる数々の災難はほぼ予測可能なものだけれど、冒頭から漂う異様な不穏さと主演俳優Mads Mikkelsenの演技には説得力があった。

上映後、吉武美智子さんのご好意で、コンペ、アッバス・キアロスタミ『Like someone in love』の公式上映、カクテルの招待状を頂く。夜の公式上映のため、ホテルに戻ってドレスアップし、カクテルの会場へ。上映三十分前には、俳優たちとともに、キアロスタミ、プロデューサー堀越さんが到着!残念ながらすでに会場時刻を過ぎていたため、写真を撮ったあとに急いで上映会場、グラン・リュミエールに向かう。

タクシーのフロントガラスにくっきりと浮かぶ東京の夜景が魅力的で一気に引き込まれてしまった。地理的な距離感の消失−−東京→静岡→横浜−−はさほど気にならない。ガラス越しに反射するイメージは、心象風景というよりむしろ、登場人物の視線の先を、もうひとつのスクリーンのように私たちに見せてくれる。風俗嬢アキコと元大学教授の老紳士との不可思議な出会いもまた現実的な物語の整合性を超えて、おとぎ話のよう。限られた登場人物の何気ない会話と時折見られる感情の表出、どうやって異境の地でこんなにも素晴らしい演出ができるのか……まさにキアロスタミ・マジック!主題の重さがある種の評価基準であるかのようなカンヌでは、『Like someone in love』のような作品こそ評価されて欲しい。