Susan Ray interview
スーザン・レイ インタヴュー

2011年、ニコラス・レイ生誕百年にあたるこの年に、これまで長らく陽の目をみることのなかったニコラス・レイ監督作『ウィ・キャント・ゴー・ホーム・アゲイン』が第12回東京フィルメックスで上映された。ニューヨークの大学で教え子たちと撮影したという今作は、前衛的な手法が駆使された実験映画であると同時に、映画作家ニコラス・レイの生き方そのものが色濃く影を落としている作品となっている。今回私たちは、この作品の復元に尽力し、映画祭審査員として来日したスーザン・レイに幸運にも話を聞く機会を得た。言うまでもなく彼女はニコラス・レイの晩年をともに過ごしたパートナーであり、彼をめぐるドキュメンタリー映画『あまり期待するな』の監督でもある。映画作家として、教育者として、そしてひとりの死にいく人間としてその最期を生きたニコラス・レイ。そんな彼の姿を見つめてきた彼女の言葉から、現在でもなお重要であり続けているニコラス・レイという存在の一片を垣間見ていただければ幸いだ。

ニックはどこまでも寛容な人でした

――ニコラス・レイ生誕百年という節目に、彼にまつわる2本の映画を見ることができて大変嬉しく思います。これまでの彼の仕事を現在ふり返ってみて、どのように感じられますか?

スーザン・レイ(以下、SR)私自身は「生誕百年」ということにそれほどこだわっているわけではありません。しかし、それはニコラス・レイの作品に再び注目を集めるためのひとつの方便・方法となりました。『ウィ・キャント・ゴー・ホーム・アゲイン』が復元されるきっかけとなったのです。わたしはニックの才能をもちろん信じていたので、いまでも彼の仕事がもっと注目を集めてほしいとは思っています。しかし彼の映画における価値観や問題意識、またそれらにアプローチする方法は、現在でも未だ重要だと感じています。ニックが彼の映画で行ってきたことを、現代の映画にもっと再導入していっても良いのではないでしょうか。

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スーザン・レイ(Susan Ray)

1951年コネチカット州ニューヘイブン生まれ。ニコラス・レイ財団代表、映画監督。1969年の「シカゴ・セブン」裁判のリサーチ中に、同事件の映画化を企画していたニコラス・レイと知り合う。彼の死後、『ウィ・キャント・ゴー・ホーム・アゲイン』の復元版の製作に尽力する。ニコラス・レイ生誕百年となる2011年、復元版を完成させるとともにドキュメンタリー映画『あまり期待するな』を監督。編著に「わたしは邪魔された――ニコラス・レイ映画講義録」(1993年)がある。
Nicholas Ray Foundation(ニコラス・レイ財団)HP
http://nicholasrayfoundation.org/