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July 06, 2004
『不実な女』クロード・シャブロル
[ cinema]
この映画でステファーヌ・オードランが演じるのは、「不実な女」というよりも「無関心な女」だ。映画を見ながら終始気になっていたのは、どこを見ているのかわからない彼女の瞳であり、また何を考えているのかわからないその表情だった。ミシェル・ブーケが「僕を愛している?」と彼女に聞くのは、彼女に浮気の疑いがあって、彼女が誠実さに欠けた妻だからではない。妻は無関心なのではないか。夫に対してこれといった関心もなく、あるいはそもそも愛に対して無関心なのかもしれない。だから、彼は不安に駆られてしまう。
ごみごみとした都心部を離れ、静かな郊外に大きな屋敷を構えるいわゆる「ブルジョワ」家庭にそっと忍び寄る危機。可愛い息子もいて、家事を引き受けてくれるメイドを雇うことも可能な、何不自由ない生活を送っている夫婦に訪れるのは、経済的な危機ではなく、感情的な危機である。『不実な女』が語るのは、妻の浮気相手をつきとめた夫が彼を殺害し、最終的には警察に連行されるまでの顛末だ。つまり、それは痴情の果てに起こるありふれた悲劇なのだが、感情が支配する物語を語るこの映画において、シャブロルは登場人物の感情の機微を描くことにはほとんど何の関心もないかのようだ。「君を愛している。狂ってしまうほどに」というミシェル・ブーケの最後の言葉は、確かに彼の行動にそぐわないものではないけれども、ただそれだけだ。そして、ここで行われる犯行の「リアルさ」を追求することもシャブロルの関心事ではないだろう。シャブロルの関心は、たとえばパズルのピースがひとつ足りないということが、登場人物の関係を直接的に暗示してしまい、またさらにはそれが物語の構造のメタファーでもあるというようなことにある。全体の中の小さな一点がほかの一点とリンクし、そこに関係が生まれる。それに加えてその一点がそのまま全体ともなり得るし、そのようにしてできあがった関係性には誰も逆らうことなどできない。
ステファ−ヌ・オードランの見開かれた瞳が不思議な魅力を放っていたのは、そこに何の感情も読み取ることができないからだ。彼女の瞳や表情は、この映画を支配しているそのような関係性に気付いてしまったものが、止むなく持ってしまうそれだ。彼女が浮気相手と出会った場所は、映画館だった。彼女を「昼下がりの情事」へと、不実な妻へと向かわせたのは、映画であり、映画館という空間である。そして、それは彼女をそのような関係性に気付かせるきっかけでもあった。
投稿者 nobodymag : July 6, 2004 05:39 AM
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