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August 26, 2004

オリンピック サッカー準決勝 アルゼンチン対イタリア

[ cinema , sports ]

見事なフットボールでアルゼンチンの完勝。3-0という点差は、単にイタリア・オリンピック代表とアルゼンチン・オリンピック代表のチーム力の差ばかりではなく、それぞれのチームが実践するフットボールの質の差でもある。
4-4-1-1というイタリアの布陣に対し、3-4-3あるいは3-5-2のアルゼンチン。ユーロの失敗に懲りず、この期に及んでまでカテナチオの伝統を凡庸に実行するイタリア。フラットの4人のバックラインと中盤にも4人、その前にピルロ、その前にジラルディーノ。8人で守って2人で攻める。開始早々こそ、アルゼンチンの右サイドを破って、ゴール前にジラルディーノが迫ったが、その後は、一方的なアルゼンチンのペース。
まずアルゼンチンのディフェンスから書こう。これは極めてシンプル。3人のバックライン、その前にピルロへのマンマーク。これだけでイタリアのアタックは完全に息の根を止められる。すべてのパスはピルロを経由するから何が何でもピルロを押さえれば十分。オットー・レーハーゲルのギリシアの教訓が生きているようなマンマーク。
そしてアルゼンチンのアタック。これは本当に素晴らしい。ピルロからボールを奪うと全戦に展開するのだが、これが極めてクリエイティヴでイマジネーションに満ちたものだった。ロングパスは使わず、その多くが中距離で適切に間隔を保った前線の6人(ピルロのマンマークにつくディフェンダーを除く)の間をかなりの速度でボールが動いていく。緩やかなパスは一本もない。穏やかなパスではなく、強いパスが足下にピタッと収まり続け、イタリアの4人並ぶディフェンダーの綻びを作り出していく。決して力業で強引な突破が試みられるわけではなく、素早く強いパス交換から、選手たちが過ぎすぎにスペースを作り続け、最後には空いたスペースにフリーの選手が生まれる。もちろん強いパスを足下で止められる個人技をまずは賞賛すべきだろうが、それ以上に、ポゼッションすることとは本来このような作業なのだというお手本を見せられるような圧倒的な迫力を感じた。
ジーコが指揮する日本代表のポゼッションなど、もともとプレッシャーの少ない中でしか実践されないものだが、アルゼンチンのポゼッションは、単に遅攻ではないのだ。絶好調時のアーセナルが時折見せるようなボールと選手が同じような速い速度で回転していくような感じとでも言ったらよいのか。とにかくイタリアのディフェンダーたちが固唾をのんで見守るしかないパス回しがペナルティ・エリア周辺で開始され、多くは左サイド(ボネーロ側)が崩され、シュートを浴びる。そのシュートもかすかすのタイミングで打つものではなく、前向きにフリーになった選手が打つ。日本遠征をキャンセルしてギリシャに留まったビエルサの意図が十分に感じられた。

梅本洋一