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September 9, 2004

日本対インド

[ cinema , sports ]

この際4-0という点差(高原と鈴木のノーマークのヘッドが決まっていれば6-0だった)も、オマーンとの対比もどうでもよい。高原の動きが悪かったのも気にかかるし、伸二の「俺が仕切るぞ」という気合いの空回りも気になるが、W杯の1次予選でもなければ、コルカタ(昔はカルカッタと言ったよね)でのフットボールのゲームなど見ないだろう。この雰囲気とこのスタジアムがとても気になった。ソルトレイク・スタジアム。昔は塩水湖があって、その後に作られたスタジアムだそうだ。このことについてはSportsNaviの宇都宮徹壱さんの記事(http://sportsnavi.yahoo.co.jp/soccer/japan/column/200409/at00002357.html)に詳しい。彼もその記事で述べているけれども、この古色蒼然としたスタジアムが1984年に造られたことは驚きだ。東京オリンピック(1964年)のおりに完成した国立競技場よりも20年も新しいということだ。観客席が3層あり全部で12万人の収容能力があると言われれば、もちろんインドは人口が多く、中国の次はインドが世界を席巻するというエコノミストたちの意見も思い出すことになる。ピッチから遠くの方にある観客席には信じがたいほどの人々がいて、インドにボールが渡ったり、ディフェンダーがクリアするたびに大きなこだまのような歓声が響いてくる。W杯予選を死ぬ気で戦うのだ、という緊張感も、イタリアやスペインでお目にかかるようなサロンのような雰囲気も、娯楽に本気につき合おうというリオやブエノスアイレスの巨大スタジアムの喧噪も、ここにはない。ゆったりと時間が流れ、その中にフットボールのゲームが包み込まれたようなたゆやかな時間がここにある。確かに選手たちはその時間の中でも一生懸命やっているわけだが、その一生懸命を支える速度が、この空間にはまったくふさわしくない。つまり、この空間は、およそ現代のフットボールには似つかわしくないのだ。ハーフタイムで停電による30分の中断があったが、普通なら絶対に起こりえないこの事件も、この巨大で緩やかな空間の中では、ごく自然な出来事のように感じられる。顔面を強打された川口の気合いもこの空間の中では些細な出来事のように見えた。

梅本洋一