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October 22, 2004

チャンピオンズ・リーグ レアル・マドリッド対ディナモ・キエフ

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勝つことがもはや犯罪的になった日本代表の醜い「サッカー」を見せられたあと、躍動する本物の「フットボール」に歓喜したいと思うのは至極当然の心理であり、だから、文字通り草木も眠るような時刻にいそいそと起き出し、眼を擦りながらブラウン管の前に着座するという些か不健康に思える行為にも耐えることができるのだ。否、むしろ日本代表戦によって誘発された「消化不良」のほうが不健康そのものであり、もはや幼少の頃から習慣化された暗がりのなかのフットボール観戦こそが、乾布摩擦やウォーキングにも似た健康的な行為なのかもしれない。いずれにせよ、不健康に生活するのは良くないのだから、早々の恢復を望まなければならない。都合の良いことに、このミッドウィークにはチャピオンズ・リーグがプログラムされていた。そのなかでもレアル対キエフの試合を見ることにしたのだが、その選択の理由は、レアルが見たかったのではなく、逆に今年のサプライズになるかもしれないキエフのアタックに健康恢復の期待を懸けたのだ。01-02大会のゼ・ロベウトがいたレヴァークーゼンは魅惑的だったし、03-04大会のモナコもジュリ、ロテンを擁し美しいフットボールを展開した。総じて、チャンピオンズ・リーグではサプライズとなるチームが必ずといっていいほど、その年のベストゲームを繰り広げる。というか、サプライズという言辞が死語になるほど、昨今中堅クラブの台頭が著しい。その最たる例が前回大会の決勝なのだ。キエフも第二のポルト、第二のモナコに成るべく絶好のスタートを切った。ここでレアルを叩けば、「本物」として名を世界中に轟かせることができるのだ。しかし、結果から言ってしまえば、キエフはまだ「中堅クラブ」の域を出ていない。去年のモナコほどの魅力的なアタックはないし、ポルトのように堅実なシステムもないようだ。第二のポルト、第二のモナコになろうという気概より、第二のシェフチェンコになりたいという空回りした気概のほうが大きいようだ。つまり、キエフの選手は攻撃に転じたとき、個人プレーに走りがちであり、パス回しという概念をほぼ持ってない。穴だらけのレアルの守備陣を完璧に掻い潜るような瞬間は一度か二度しかなかった。いま少し、展開をワイドに、ボールをすばやく捌くようにすれば好機を見出せたのではないか。キエフの選手にとってサンチャゴ・ベルナベウは個人の展示場でしかなかったのか、そう疑いたくなるような瞬間ばかりであった。勿論、対レアルということで空回りしたのかも知れないのだから、烙印を押すのは時期尚早である。レヴァークーゼン戦で見せたようなフットボールを取り戻して欲しいものだ。
逆にレアルは、ロナウドの電光石火の突進もほとんどないし、「期待の新人」オーウェンはロナウドとポジショニングがかぶることも多く、未だ連携がうまくいっていない。ジダンの華麗さも影を潜め、フィーゴの神出鬼没のドリブル突破も負傷退場で見れずに終わる。ラウルも少しは良くなってきたがパスミスが目立った。ディフェンスに関しては、サムエルが出場停止だったので、以前から連携が改善されたのかどうかはかるすべもなかった。しかし、ギャラクシカルとは名ばかりの、あくまでも普通のフットボールを展開するレアルを見て健康恢復とまではいかないものの、それでも前半15分までのレアルのアタックは文字通り目の覚めるようなシロモノであり、喉に痞えた痰が取れたような気分だった。仮に今のレアルごときものでも、日本代表を見るよりはよほど健康的であると一人得心した。完治を期待し週末にアーセナルの試合でも見ようと思うが、逆に「異次元」のスピードに面食らい眩暈を起こすかも知れず、不健康な私に耐えられるか些か疑問である。

小峰健二