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November 30, 2004

ラグビー
フランス対オールブラックス

[ book , sports ]

19-21というラグビーの醍醐味を味わったイングランド対ワラビーズ戦の直後、フランス対オールブラックス戦を見る。前者のゲームは、どちらもミスなく、徹底したFW戦が展開され、こうしたゲームの常道としてPGの数がものを言う。イングランドのSOホジソンは案の定ふたつのPGを外す。ウィルキンソンがいれば、25-21というゲームだったはずだ。だが、ワラビーズもラーカムを欠いているから、昨年のW杯から少しずつ南半球の力が上向いているということなのか。
そうした予想は、フランス対オールブラックスでも証明される。6-45(トライ数0-5)というオールブラックスの完勝。TV5の解説に登場していた往年の名ウィング、サンタンドレは、「打開策は何も見つからない。FWの力量が足りない。どんな場合もオールブラックスはゲイン・ラインを切るが、フランスのアタックは、オールブラックスのディフェンス・ラインの前でボールを回すだけ。ブレイク・ダウンの回数が増えるだけ、後退していく。フランス開催のW杯はもう3年後に迫っているのに」と涙声になっていく。
ゲーム開始早々ミシャラクのPGが決まり、フランス有利に展開するかと思われたがどのフェイズでもオールブラックスのアタックが、フランスのディフェンス・ラインを2〜3メートル後退させていく。この日、SOに起用されたダニエル・カーター──グレアム・ヘンリーは、このチームには“キング”スペンサーは不要だという決断をついに下した──の左足からのキックがつぎつぎにフランス・ゴールを越えていく。2PG対4PG。そして、最後の最後で踏ん張っていたフランスのディフェンスがついに破られ、6-19で前半終了。モール、ラック、スクラムで完敗のフランスFW。「力が足りない」Ils manquent de puissance!──サンタンドレは何度繰り返しただろう。オールブラックスのアタックは、決して優美でも派手でもない。このチームの伝統である強いFW。次々にピックアップ・プレイを連続し、ゲイン・ラインを越え続け、短いラインから、バックスが斜めに走り込む。ポゼッションを続け、力強いFW──特にリッチー・マッコー、コリンズの両フランカー──がボールに絡み、ボールを奪い取り、ゲイン・ラインを必ず越えていく。FW陣を叱咤激励するSHケラーはパスではなく、ほとんど勝負を選択する。ベッツェン、マーニュ、アリノルドキのフランス自慢の第3列は、もっぱらタックルに走り、ラックの下に取り残され、機動力どころの話ではなくって行く。1次防御のラインに歪みが生まれ始め、そこにオールブラックスが塊のように押し寄せる。
「ハーフタイムでのラポルトの指示が重要だ」。まだ楽観的でいられたサンタンドレも、後半早々にトライを許すと、もう為す術なしを繰り返すだけ。「ボールを奪っても、結局、キックしか選択肢がなくなる。それもただのタッチ・キックだ」。オールブラックスはマイボール・ラインアウトからまた力感溢れるアタックを再開するだけだ。マルコネ、ドゥヴィリエの両プロップが負傷退場し、後退でミルーとブリュが入るが、ブリュはフッカー専門のため、スクラムでプレッシャーをかけることが禁じられる屈辱的なゲームを強いられるフランス。後半20分過ぎに、タッチ・ラインの外にうずくまるマーニュの姿。足がつっている。インターナショナルマッチが禁じられていたアパルトヘイトの時代に、IRBの反対を押し切って南アフリカに遠征し、スプリングボクスに完敗した79年のフランス・チームを思い出す。皆が血を流し、キャプテンのリーヴが金髪を真っ赤に染めてラックに突っ込んでいった悲劇的な風景に似たなにかがスタード・ドゥ。フランスを支配している。
どうすればいいのか。自慢のワイドラインもボールが取れなければ、スカスカのディフェンス・ラインだ。スペースがなければ、ミシャラクのキックパスなど不可能だ。常に「受け」に回っていると、PGで差を広げられずについて行く可能性もない。オフ・サイドを繰り返すのは、押されているフランスだ。徹底したシャローで突き刺さるタックルを決めるのはベッツェンひとり。トライ・ネイションズではオールブラックスのバックスにミスが目立った。今ではスピードのある距離の短いパスが正確に受け手に収まっていく。スペンサーの「フレア」など不要だ。単純だが、詰めのディフェンスを全員が心がけるしか道はない。ワラビーズには競り勝ち、ピューマスには競り負け、オールブラックスには完敗。現実を見つめるしかない。

梅本洋一