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February 16, 2005
『ビフォア・サンセット』リチャード・リンクレイター
[ cinema]
人は誰でも思い出を持っている。良い思い出もあれば、悪い思い出もあるだろう。そうした思い出はいつのまにか時間と共に少しずつ忘れられていく。しかし、忘れたと思っていた思い出はふとしたきっかけで思い出されることがある。そのきっかけは、風景であるかもしれないし、音楽であるかもしれないし、ある言葉であるかもしれない。そうしたものに何気なく触れた時に、それが前にどこかで経験したことがあると思われ、それがある具体的な記憶と結びつくことになる。それらは思い出そうとするつもりがないのに突然やってくる。きっとそれは忘れていたと思っていた思い出を、完全に忘れてしまうことができないからだろう。
映画が始まると、ジュリー・デルピーの歌とともに、パリの街角の風景、カフェの外観、セーヌ川の向こうにあるノートルダム寺院の風景が見られる。それらの風景や音楽は誰かの思い出であるかもしれないし、このあと再会するふたりの思い出となるのかもしれない。それらの風景には人気がなく、十分に何かを思い出すきっかけとなってくれそうな風景だ。作家になったジェシー(イーサン・ホーク)はパリの書店で、客の質問に答え、自らの作品について語っている。ジェシーの言葉とともに、9年前に作られたこの映画の前編とも言うべき『恋人たちの距離(ディスタンス)』(原題Before Sunrise)の断片がみられる。ジェシーとセリーヌ(ジュリー・デルピー)が楽しげに話し、ウィーンの街を歩いた一夜。自らの語る言葉がきっかけとなってジェシーは9年前を思い出す。そして、彼の前に思い出から零れ落ちたようにセリーヌが現れる。
再会したふたりは、ふたりの近況を語り合い、9年前の「日の出前」の思い出を語り合い、その思い出がその後の9年間にどう影響したかを語り合う。再会してからというものふたりはひたすら語り合っている。ふたりの会話はお互いに9年前の一夜を思い出すきっかけとなるだろう。しかし、実はふたりともその思い出を鮮明に覚えている。だから、ふたりにとって思い出はすでに存在して、それはその後のふたりの9年間に強く影響を与えてしまったほどに大きなものとしてある。セリーヌはジェシーとの会話で次のようなことを話す。「私たちは辛い思い出を良い思い出に変えることができる。こうして再び出会えたことで思い出を良いものとして作り変えることができる」。だから、ふたりの再会は、9年前の約束を果たせなかったふたりがその後の9年間を良い思い出に変えようとすることであり、それからまた新たな思い出をつくることだ。この映画でなされるジェシーとセリーヌの会話は、過去と向き合うことではなく、ふたりの新たな思い出を作っていくためのものなのだろう。再会したふたりが今後どうなるかはわからない。しかし、ふたりの間でなされた会話が、歌がふたりの思い出となるのは間違いない。そして、いつかまた、ふたりはその思い出を確認しあい、また新たな思い出を作っていくのだと思う。
この映画をみて、自分にとって忘れたいとおもっていた過去を何故か思い出していた。きっと僕もまた、そうした思い出を忘れるのではなく、良い思い出として変えていきたいと思っているではないだろうか。
投稿者 nobodymag : February 16, 2005 04:01 AM
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