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March 12, 2005

『フランシス・ザ・ミュート』マーズ・ヴォルタ
鈴木淳哉

[ music ]

885.jpg食い詰めた悪党が一発逆転をかけた銀行強盗の後、メキシコへの脱出をはかり、まんまと成功したり仲間割れしたり、といったすべての映画の上映時間を足すと、だいたい私の生きた人生と同じ位の長さになるというほどのことはないだろうが、とにかく、使い古された擦り切れ寸前のドラマではあろう。劇的な人生の話。または、もうウンザリだ、というほど繰り返し聞かされたような気がする退屈な話。聞けば、テキサス州エル・パソの町はメキシコと国境を接する町だという。
「ストーリー性の高いアルバム」とメンバーが語るとおり、歌詞以外の部分も過剰に劇的な音の展開である。そして、とにかく乾いている。無理矢理ぶち上げた巨大な構想を最速で築き上げた結果か、内から才能がにじみ出るような音楽ではなく、とにかくその枠の中に才能でもなんでもぶち込んでいく音楽である。聞き手に何かを与えるのではなく、聞き手から何かを奪う音楽。ギターの音色、サルサのリズム、ベースにかかるエフェクト、それら細部に施された、おそらくはオマー・ロドリゲスの意匠が過剰な劇性を演出している。否、力ずくで、無理やり支えている。このすかすかの構造はそのまま崩れ落ちるか、その強い渇きによって隙間は補填されるか、その一点にマーズ・ヴォルタは賭けているからだ。
1曲20分に及ぶ演奏時間は狂騒で満たされているが、そこから垣間見えるのは退屈を避ける強迫観念でも、こうありえたかもしれない、もしくはかつてそうであったドラマチックな町エル・パソへの憧憬のまなざしでもなく、おそらくはとにかく冷徹な凝視、最悪に退屈な現在のエル・パソへの視線である。虫眼鏡のようなオマーの眼鏡は、退屈を焦がしたかもしれない。
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