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March 12, 2005

チャンピオンズリーグBEST16 2ndLEG
梅本洋一

[ cinema , sports ]

ここまで来ると、どのチームも通常のリーグ戦とはまったく異なる表情を見せる。どの選手も大金持ちで、適当に流しても生活に何の支障もないのだろうが、どのゲームも後半に入りベスト8進出がかかった時間帯になると、目の色を変えてゲームに没頭する。だからスポーツ観戦は辞められない。
チェルシー対バルサ( 4 - 2, total 5 - 4 )。ゲーム開始後20分間のチェルシーの猛攻はすさまじいものがあった。アウェイ・ゴールを1点挙げているチェルシーは、ここで最低2点とれば大きなアドヴァンテージを得られるからだ。モウリーニョのゲームプランは見事だ。欠場しているマルケスの穴を全員がついて行く。この時間帯に上げた3点の内2点は、グジョンセンとダフが同じコースを走った結果だ。ベレッチとプジョルの間、本来ならマルケスがケアすべき場所を一直線に走る。そしてバルサの反撃はロナウジーニョ。2点目のノンステップのシュートは誰にも真似できまい。そして、3 - 2になってからは、もう「根性の勝負」。ノックアウトシステム、そしてアウェイ・ゴール2倍の規則は、こうしたゲームを活性化している。
ユヴェントス対レアル( 2 - 0, total 2 - 1 )。レアルがマドリーで1 - 0ではきつい。ホームでは2点差つけないときついのだ。1点とられれば延長戦、しかもアウェイ。ベッカム、ジダン、ラウルを下げて、ソラーリ、グティ、オーウェンで何とかユーヴェに迫ったが、絶好調のカモラネージ、イブラヒモヴィッチ、トレゼゲのまったく落ちることのない運動量の前に延長戦に散った。このゲームも最後は「根性」。120分続けたプレッシングと体力は、はるか銀河系まで届いてしまう。
そしてアーセナル対バイエルン( 1 - 0, total 2 - 3 )。前半、バイエルンのプレッシングの前に中盤がまったく機能しなかったアーセナル。このチームを殺すには、豪腕のストライカーも屈強のセンターバックも要らない。中盤のスペースを消せばいい。マガトはそのことをよく知っていた。アシュリー・コールが俊足を飛ばして左サイドを疾走するたびに、コールにパスを出すはずのレジェスに襲いかかるバイエルンのディフェンス陣。天を仰ぐレジェス。何度もこのシーンの反復。ヴェンゲルは満を持して後半15分にピレスを投入する。個人技で最低ひとりをかわせるこのミッドフィールダーの投入でリズムが変わる。外を走るコールのスペースを作り、中を走るアンリにパスが送られる。コール→アンリで先制ゴールは65分のこと。それからアーセナルの猛攻が開始される。後1点でベスト8入りを逃すバイエルンはゴール前に閉じこもり、ミッドフィールドにスペースを見つけたアーセナルは、2タッチのショートパスが面白いように繋がり、いつものリズムを取り戻す。だが、バイエルンはキーマンのベルカンプを徹底して押さえ込み、ヴァイタルエリアでアーセナルのアタックをはね返す。常に冷静にゲームを見守ることの多いヴェンゲルがハイバリー最前列の板をたたいて選手を鼓舞する。遠くなりつつあるプレミアシップとFAカップ。彼らにとって唯一残された勲章であり、このチームが夢見るのはチャンピオンズリーグ制覇だ。フラミニに代わってセスク、リュングベリに代わってファン・ペルシ。ほとんどスクランブルにも近いアタックは、このゲームにかけるヴェンゲルの執念そのものだ。だが、ゴール前に縮減されたスペースをスルーパスが通過することはなく、(いつものように)ミドルシュートを放つ者は誰もいない。最後尾から上がってトゥーレが放った強烈なシュートもカーンがパンチングで防ぐ。シュートを打たなければ点は入らない。最後まで崩しに固執するアーセナル。結局ミュンヘンでの3失点が響いて(その内1点でも防いでいれば、アーセナルがベスト8に残った)今年もこのチームはベスト8に残れなかった。「ど根性」の戦いをこのチームはしたことがないのだ。確かにアンリのゴールは見事の一言だし、崩しに成功すればビューティフル・ゴールが生まれる。だが勝たなくては明日はない。ヴェンゲルの額にはまた深い皺が刻まれるだろう。