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March 22, 2005

ラグビー:6 Nations ウェールズ対アイルランド
梅本洋一

[ book , sports ]

結果から書こう。32-20でウェールズ。27年ぶりのグランドスラムだ。今から27年前とは、ウェールズがレッドドラゴンの名をほしいままにし、JJそしてJPRのふたりのウィリアムズ、そしてこの日英語放送の解説をしていたフィル・ベネットなど黄金時代の名選手の最後のキャリアになった時代だ。それからウェールズはいいところまで行ったことはあったが、5ヵ国対抗、6ヵ国対抗をグランドスラム(全勝)で飾ったことはなかった。ミレニアム・スタジアムに集まった10万の観衆の歓喜の渦。
今年のシックス・ネイションズでウェールズを優勝候補にした人は少ないだろう。一昨年のワールドカップ優勝のイングランド、あるいは次期ワールドカップ開催国のフランスを優勝候補にした人がほとんどだ。僕もそう。まさかウェールズがここまで来るとは思わなかった。だが、冷静に考えれば、その兆候はすでに一昨年のワールドカップの準々決勝の対イングランド戦にあった。17-28でイングランドが勝ったが、スタッツを見ると、トライ数で3-1とウェールズが勝っているが、ウィルキンソンの6PG、1DGの21点が大きくものを言い、イングランドが勝った。ウェールズのつなぎまくるラグビーとシェーン・ウィリアムズの快走が印象的なゲームだった。だが、当時のウェールズと今のウェールズの差異も見逃せない。
当時のチームはつなぐとはいえ、SOのスティーヴン・ジョーンズのキックと左ウィングのウィリアムズのスピードが決め手だったが、今年のウェールズはヘンソン、シャンクリンの両センターのラインブレイクが特長だ。このふたりはワールドカップの対イングランド戦には出ていない。このディフェンスよし、アタックよしのふたりのセンターがウェールズの快進撃を支えた。2003年のワールドカップがイングランドのウィルキンソンのキックこそ主役だった印象の薄い大会だったが、今年のシックス・ネイションズを見る限り、勝利の鍵は両センターだ。できる限りキックを封印し、両センターでラインブレイクを図ろうとするとき、ゲームはかならず動いている。たとえば今シーズン、ウェールズが唯一後れをとった対フランス戦の前半、フランスはトライユ、ジョジオンの両センターがウェールズ・ディフェンスを何度も切り裂いた。そして、リードを奪ってからはキッキング・ゲームを始め、ウェールズの両センターにボールを渡すことになり、敗北していった。この日のゲームでウェールズに大差で勝てば優勝の目があったアイルランドもオドリスコルという好センターがキャプテンだ。彼のラインブレイクでフランス戦では見事なトライが生まれた。そのオドリスコルは、このゲームでシャンクリンのタイミングのいいタックルの餌食になっていた。
センターを中心とするゲームの組み立てができるチーム──ウェールズ、フランス(対アイルランド戦のバビのトライを思い出す)、アイルランド──が好成績を収め、ウィルキンソンの左足にオンブにダッコだったイングランドはいいところがなかった。鍵は両センター。これはキック復活のラグビーに警鐘を鳴らしている。本来パスとラインブレイクこそ──そこから始まるトライこそ──ラグビーの醍醐味なのだ。スコットランドとイタリアは問題外。そして、スコットランドに100点ゲームで敗れ、ホームでイタリアに惨敗するジャパンはもっと問題外。6月の南半球遠征の時期までラグビーはひと休みだ。同じフットボールのワールドカップ予選に集中しよう。