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May 27, 2005

Champions League 04/05 Final リヴァプール対ACミラン 3-3 (PK3-2)
梅本洋一

[ cinema , sports ]

 前半のミランは完璧だった。開始1分でマルディーニのヴォレーシュートが決まり、入れ込み気味のリヴァプールに冷水を浴びせ、前半終了前には、クレスポが連続ゴール。これでゲームが決まったと思わない人はいなかったろう。ピルロがやや不調ではあったが、他の選手たちはコンディションもよく、スクデットを捨ててこのゲームに照準を合わせてきたのがよくわかった。特にクレスポ、シュフチェンコ、カカの前3人の出来は本当に素晴らしかった。リヴァプールは何もしないどころか、キューウェルを怪我で失う負債まで背負う有様。ファイナルの常連ミランと21年ぶりのリヴァプールでは格が違う、これでは5-0も夢ではない、前半終了時には誰でもそう思った。
 だが、おそらくベニテスだけは、これでゲームが終わったと思っていなかったろう。後半から、右サイドのフィナンを下げ、ハマン投入。フォーメーションはどうなるの? 前半はいつもの4-4-1-1。ハマンは中盤の選手だ。解答欄には3-5-1-1と書くのが正しい。ミランの2トップに主に対応するセンターバックを1枚増やし(左サイドのトラオレ)3バック、カカ、ガットゥーゾ、セードルフにかき回された中盤にハマンというピースを入れ、シャビ=アロンソ、ハマン、ジェラードの3人のセンターミッドフィールダーに、リーセ、スミチェルを両サイドに置き、ルイス=ガルシアとバロシュというアタッカー。ディフェンスラインが落ち着き、中盤でも引けをとらない布陣になると、ポゼッションでもほぼイーヴンになる。リーセのクロスからジェラードのヘッドが炸裂し、スミチェルの地をはうようなミドルがミランのゴールネットを揺らすまで大した時間がかからなかった。2-3になると流れはリヴァプールのもの。この瞬間、前半とは逆にリヴァプールがいつ同点に追いつくのかに全員の興味が集中したと思う。このフォーメーションの変更によって、ミランの両サイドが封じられ、2トップにボールが収まることがほとんどなくなり、セードルフもカカもディフェンスに追われる展開になった。ガットゥーゾがジェラードを本当に押したかどうかはどうでもいい。ミランは追いつかれる運命にあった。シャビ=アロンソのPKをジダは手に当てるが、2発目がゴールネット上方に突き刺さる。イスタンブールがまるでアンフィールドのように揺れ始める。後半開始15分でイーヴン!信じられない展開だ。
 これからリヴァプールの押せ押せだ、とここで誰もが思ったろうが、ベニテスだけはPK戦でよいと思ったろう。選手たちは疲労し始める。まずバロシュからシセ。彼のコンディションは大して戻っていないが、走ることが仕事だ。そしてタイムアップ。延長戦。ベニテスは、ここでもフォーメーションを変えている。ミランは、タイムアップ前に左サイドのスペシャリスト、セルジーニョを投入、クレスポに変えてトマソン。定石通りの交代だ。カフーとセルジーニョのクロス、そしてトマソンのクロスへの反応に期待だ。延長に入るとベニテスは何とジェラードを右サイドに固定し、左のリーセにもアタックを控えさせる。鉄人ジェラードと強烈な左足を持つリーセにミランの両サイドを封じさせる。ゲームが停滞するのは当然だ。これで点が入るとしたら事故のようなもの。運頼みのPK戦を何とか避けたいアンチェロッティはガットゥーゾに代えてとっておきのジョーカー、ルイ=コスタ投入。だが時間が短すぎた。
 ゲームはベニテスの考えたとおりPK戦。セルジーニョ、ピルロが外し、最後にシェフチェンコが外し万事休す。本当ならリヴァプールの5人目はジェラードだったろうし、ジェラードが決めてリヴァプールの優勝の方が格好良いが、ジェラードは結局PKを蹴ることなく勝利が決まった。
 ベニテスはジェラードの能力を信じ、彼と「心中」を決意して後半に望んだろうが、ジェラードはベニテスの期待に十二分に応えた。「人生で最高の夜を迎え、こんな夜があるなら、ぼくはリヴァプールを去らない」と言った、チェルシー移籍の噂があったジェラードの言葉はリヴァプール・ファンを泣かせるだろう。もちろんミランの方が強い。リヴァプールは前半で自分たちの弱さを実感したに違いない。だが、ベニテスは本当に策士だ。永遠に勝ち続けて強さを誇示する必要などない、今晩だけ勝つにはどうすればいいのか。コーチはそれだけを考えればいい。このチームの実力はプレミアシップ5位というのが本当のところだろうが、ベニテスの柔軟な対応によって1度ならば、チャンピオンズリーグの頂点に登ることもできる。