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June 15, 2005

『クローサー』マイク・ニコルズ
須藤健太郎

[ cinema , sports ]

 はじめてエリック・ロメールの『友達の恋人』を見たとき、そこに4人しか登場人物がいないことにとても驚き、そしてそのことが当時はとても重要なことのような気がしていた。ふたりの閉じられた関係ではなく、いわゆる三角関係でもない。多様なドラマを生み出すためには、最低4人は必要だ。しかし、4人いればそれで十分なのだ。そんなふうに強く思い込んでいた。実際『友達の恋人』には、その4人以外はエキストラを使うこともしていないはずだ。街角でたまたまそこにいたから撮影されてしまった人がいるだけで、映っている人は多くとも、本当に4人しか俳優を使っていなかった。その最低限の俳優だけで映画を作り上げる方法が、5人くらいの少人数で映画を作ってしまうロメールの方法とどこか繋がるような気がして、すごい、すごいと喜んでいた。
『クローサー』も『友達の恋人』と同じように4人が主要な登場人物だ。しかし、もちろんエキストラも含めた多数の人がこの映画を構築するために動員されている。舞台はロンドン。主要な登場人物を、ジュード・ロウ、ジュリア・ロバーツ、ナタリー・ポートマン、クライヴ・オーウェンが演じ、彼らが織りなす恋愛模様が描かれている。ほとんどのシーンが室内での、彼ら4人のうちのふたりによる台詞の応酬というかたちで構成され、ジュード・ロウやクライヴ・オーウェンの言葉がなければ舞台がロンドンであることを忘れさせてしまうだろう。『友達の恋人』が少人数の俳優だけで物語を語っていながら、それが閉塞的な印象を与えるどころかむしろ、世界に向かっておおらかに開かれている印象を与えていたのと比べると、『クローサー』は非常に閉塞的な映画に思える。しかし、それが悪いというのではない。すっかり30代になったつもりで楽しんで見た。
 ところで、見終わってから、自分の思い込みにいくつか気づいた。ジュード・ロウ、クライヴ・オーウェンという配役といい、ロンドンが舞台ということもあって、一連のイギリスを舞台にしたコメディだとばかり思っていた。『フォー・ウェディング』や『ロッティングヒルの恋人』のような、リチャード・カーティスが脚本を手がけ、ヒュー・グラントが主演している一連の作品のような。もちろんそれらはハリウッド映画ではあるのだが、リチャード・カーティス脚本の作品にはどこかイギリスへの惜しみない愛が感じられるのだ。しかし、『クローサー』の監督はマイク・ニコルズであり、舞台であるロンドンにしてもジュード・ロウのレインコートを準備する以上のものではない。
 最後にもうひとつ付け加えておこう。エンドクレジットを見ていてはっとした。『クローサー』の製作はスコット・ルーディンなのだ。『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』『ライフ・アクアティック』といったウェス・アンダーソンの作品、デヴィッド・O・ラッセルの『ハッカビーズ』など、近年のアメリカ映画で無視することのできない作品をプロデュースしている人だ。最近では『ヴィレッジ』『ステップフォード・ワイフ』『クライシス・オブ・アメリカ』、それから『スクール・オブ・ロック』なども手がけている。『救命士』や『スリーピー・ホロウ』、『トゥルーマン・ショー』の製作も彼だった。

『クローサー』
丸の内プラゼールほか全国松竹・東急系にてロードショー中