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July 6, 2005

boid presents Sonic Ooze Vol.5「爆音レイト 4 weeks」
月永理絵

[ cinema ]

 4週間に渡る「爆音レイトショー」がついに、今週で最終週となる。爆音上映はこれまで何度か体験したが、4週間も続いたせいか、イヴェントというよりも、まるで「爆音」という名の映画館に通っているような感覚だった。今までの爆音イヴェントでは、いつも「こんな音が聞こえる」という衝撃に出会った。今回もそんな衝撃は何度もあった。『デモンラヴァー』でのソニックユースの音楽。空港で人々が立てるあまりに暴力的な音。そして『ジェリー』。ふたりのジェリーが歩く足音と砂利の音が混じりあい融合し、その音が鳴りやむことに恐怖を感じた。それからアルヴォ・ペルトの音楽……。そんなことを書きはじめたらキリがない。だが3週目に上映された『右側に気をつけろ』を見て考えたのは、「何が聞こえ、何が聞こえていなかったのか」ということだった。
 初日に行われた岸野雄一によるトークイヴェントで、サミュエル・フラーの『ショック集団』の何シーンかを爆音で見ることができた。そして、ここで鳴っている音は誰に聞こえていて、誰に聞こえていないのか、本当にその場で鳴っている音はどれか。そんな質問を受けているうちに、自分の耳に聞こえている音と聞こえていない音との区別が突然疑わしくなってきた。
 トークの最後に、『右側に気をつけろ』のラスト近く、映写室のシーンでドクン、ドクンという心臓の音のようなものが微かに入っているが今回はよく聞こえるかもしれないと言っていたので、注意して聞いていた。だが、実際に映画を見てみると、その音があまりにもはっきりと聞こえていたため、本当にこの音のことだったのかと戸惑った。心臓の音というよりも、ドラムを鳴らすような、何かまったく別の音に聞こえたのだ。絶対に外側にある音に出会ったという感覚が突然信じられなくなった。自分の体の内側から音が鳴っているのか、外側からの音を聞いているのか、体の外側と内側がぐちゃぐちゃになってしまったような、まるで『ショック集団』の患者たちのような気分だった。
 そんな気分のまま、2日の夜『ドリーマーズ』の初日に友人と駆け付けた。『ドリーマーズ』を初めて見るという友人は、爆音ということを意識しないまま初めて見る映画にのめり込んでいたらしい。しかし映画の中で彼ら3人の家に石が投げ込まれた瞬間、窓ガラスが割れた音の振動で自分のパンツの裾が震えたという。そしてその瞬間「ああ、この音は普通じゃないんだ」と思った、と言っていた。
 音が空気を震わすのだ。窓ガラスが割れた瞬間、警察官たちの足音や人々の叫び声が、部屋の中になだれ込んだ。そして、それは彼らのいた空間の中にだけではなく、スクリーンのこちら側に音がなだれ込んできた瞬間だった。音を聞くということは、必ずしも外側にあるものとの出会いではないかもしれない。だが、衣服を震わせるように、音は耳にだけではなく体やものに力を加えることもある。それは実に現実的で暴力的な出来事だ。やはり「爆音」は、場所であり事件でもあるのだ。

boid presents Sonic Ooze Vol. 5
「爆音レイト 4 weeks」
6月11日〜7月8日
吉祥寺バウスシアターにて