journal
« previous | メイン | next »
July 10, 2005
『S21 クメール・ルージュの虐殺者たち』リティー・パニュ中村修吾
[ cinema]
出来事と評価との間には隔たりがあるはずだ。ある出来事が起こる。そして幾らかの時間を経てその評価がなされる。出来事と評価との間には、時間的な隔たりがある。また、出来事が起こった場所と評価がなされる場所が別の場所であるという意味において、空間的な隔たりがある。『S21 クメール・ルージュの虐殺者たち』は、出来事と評価との間、言い換えれば、時間的空間的な隔たりの中に存在するものを記録しているように思う。
カンボジアでは、1975年から1979年までのポル・ポト政権時代に大規模なジェノサイドが行われ、知識人階層をはじめ多くの人々が犠牲となった。犠牲者となった人々の数は100万以上とも言われるが、正確な数字は定かではない。おそらく十分な記録が存在しないためであろう。リティー・パニュがこのフィルムで行ったのは、かつての収容所で起こった出来事に関係する記録を積み重ねることでもある。
リティー・パニュは、かつてジェノサイドの実行にあたった収容所の職員と収容所に捕らえられた囚人とを収容所で再会させ、かつて起こったことの再現を行わせる。かつての収容所職員が、声を荒げて囚人に命令をしながら牢屋の見回りを再現してみせるさまが長いワンショットによって捉えられる。身体の記憶というべきか、20年以上昔に同じ場所で行っていた行為を身体は覚えている。乱暴な身振りで囚人に目隠しをつけ足かせをはめ、通路の窓から囚人に向かっておとなしくするようにと怒鳴りつける。また、闇夜の森の中では、収容所から連れ出した囚人たちを殺害する様子を再現する。
かつての囚人は、拷問を逃れるために偽の自白をし、知っている人物の名前を政治犯として挙げたことを告白する。名前を挙げられた人物を彼がその後目にすることはなかったという。彼の自白をもとにして「政治犯」が捕まり、殺害されたのだ。
リティー・パニュは努めて客観的にこれらの様子を捉えており、監督である彼が元囚人や元職員に対して罪の有無の評価を下すことはない。彼は極めて熱心に記録を作っている。彼が記録するのは、元職員がどのようにかつての身振りを再現するかであり、また元職員と元囚人が共になってかつて起こったことを明らかにしていく様子だ。
元職員が再現する身振りが、妙に強く印象に残った。その身振りは、演技をしながらセリフを棒読みしているような、あるいは胸のうちに押しとどめてはいられない言葉を一気に吐き出そうとするような、そんな様子だ。彼が行う身振りはかつての収容所で行われた身振りに極めて近いが、それと同じものではありえない。また、彼はその身振りを行ったことに対する評価を加えることを避けながら、自らの過去の身振りを忠実に再現する。彼の身振りが妙な印象を残すのは、それが出来事と評価との間の場所でなされたものだからなのかもしれない。
リティー・パニュはインタヴューの中で、「記憶」と「忘却」の間の戦いの不平等さに触れながら、自分は記録を残した上での忘却を選んだと述べている。「記憶」と「忘却」の間の戦いが演じられるのは出来事と評価との間の中においてなのかもしれないと思うと同時に、このような記録を貴重だと思う。
投稿者 nobodymag : July 10, 2005 11:40 AM
Search
Archive
- May 2011(12)
- April 2011(5)
- March 2011(3)
- February 2011(5)
- January 2011(7)
- December 2010(3)
- November 2010(8)
- October 2010(7)
- September 2010(5)
- August 2010(2)
- July 2010(4)
- June 2010(8)
- May 2010(5)
- April 2010(7)
- March 2010(5)
- February 2010(8)
- January 2010(11)
- December 2009(12)
- November 2009(7)
- October 2009(5)
- September 2009(7)
- August 2009(6)
- July 2009(15)
- June 2009(13)
- May 2009(13)
- April 2009(17)
- March 2009(22)
- February 2009(25)
- January 2009(7)
- December 2008(13)
- November 2008(16)
- October 2008(14)
- September 2008(7)
- August 2008(10)
- July 2008(5)
- June 2008(12)
- May 2008(13)
- April 2008(11)
- March 2008(6)
- February 2008(16)
- January 2008(12)
- December 2007(15)
- November 2007(9)
- October 2007(5)
- September 2007(9)
- August 2007(16)
- July 2007(13)
- June 2007(18)
- May 2007(16)
- April 2007(9)
- March 2007(19)
- February 2007(16)
- January 2007(18)
- December 2006(9)
- November 2006(7)
- October 2006(9)
- September 2006(11)
- August 2006(11)
- July 2006(6)
- June 2006(7)
- May 2006(9)
- April 2006(8)
- March 2006(19)
- February 2006(19)
- January 2006(4)
- December 2005(6)
- November 2005(4)
- October 2005(15)
- September 2005(19)
- August 2005(23)
- July 2005(14)
- June 2005(28)
- May 2005(21)
- April 2005(22)
- March 2005(40)
- February 2005(17)
- January 2005(8)
- December 2004(13)
- November 2004(21)
- October 2004(15)
- September 2004(8)
- August 2004(19)
- July 2004(11)
- June 2004(13)
- May 2004(13)
- April 2004(10)
- March 2004(19)
- February 2004(7)
- January 2004(26)
- 2003
- 2002
- 2001