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October 14, 2005
京都 俵屋梅本洋一
[ architecture]
京都国際学生映画祭の審査員の仕事の合間を縫って京都の町を散歩する。長い散歩ができるわけではない。会場になっている四条烏丸から遠くへは行けない。三条、寺町、足を伸ばしても先斗町までか。まずは明倫小学校がリノヴェーションされた京都アートセンター。小学校建築の名作が多くのアトリエと小ホール、カフェ、図書室に変貌している。図書室に入って『京都建築案内』を立ち読み。戦争の爆撃を逃れたこの町に残っているのは神社仏閣ばかりではない。辰野金吾による多くの銀行建築が顕在だ。旧中心街の三条と四条には彼のまるで小振りな東京駅のようなビルが残っている。でもどれも同じような意匠なのには少々辟易する。
三条を歩くと、町家に混じって昭和初期に建てられたビルがリノヴェーションされている。日本生命京都支店ビル、そして1928ビル等々。映画祭も明倫小学校や1928のようなホールを備えたビルで開催すればよいのにと思う(池坊短大のホールと京都シネマ──京都シネマの入るビルは隅研吾によるリノヴェーションがなかなかよかったが……)。この町も建築ブームから免れておらず、空き地と建築現場がたくさんある。そこに挟まれたようにところどころに町家が散在している。三条から右折すると静かな路地に出る。豆腐屋、肉屋などが町家で営業中だ。その路地を抜けてやや広い通りに出ると、素晴らしい町家が2軒、通りを挟んで建っている。いずれも京都の名旅館だ。柊屋と俵屋。ちょうど柊屋からは客の老夫婦が出てきて、女将と思われる和服の女性が客を送り出していた。いかにも京都だ。
ぼくの目的は、いかにも京都の町家の典型である柊屋ではない。その前にある俵屋だ。落ち着いた濃い黄色の漆喰の壁と茶色の屋根の間に半分ほどかかった簾が通りの目隠しになっている。俵屋という渋い暖簾。もちろんこの建物も町家だが、決して古いものではない。木造平屋の旧館が59年、一見木造に見えるが実は鉄筋3階建ての新館の竣工は66年だ。その中に15室ほどの和室があると言う。設計は吉村順三。アントニン・レーモンドの事務所から独立し東京芸大の教授を長く務めたプロフェッサー・アーキテクトだ。モダニズムと「和」の究極の混交がここにある。もちろん宿泊客ではないので中を見るわけにはゆかない。
再び四条に戻り、ジュンク堂を覗くと、たまたまJAの最近刊が吉村順三特集だ。有名な中の自邸や軽井沢の別荘と並んで、俵屋の内部の写真も掲載されていた。1泊4万円を超す名旅館にはおいそれと泊まれないが、箱庭に面した縁側を持つ旧館の1室で、京都の夜を過ごしてみたいと思った。同じ吉村順三のオフィスビルである青山タワービルの竣工した日、当時、青山通りで一番高層だったこのビルの最上階に登って青山通りを眺めた午後のこと──1969年のことだった──を突然思い出した。最上階には宝石店が入っていて、慇懃にぼくら高校生は追い出されてしまった。吉村順三の建物の敷居はいつも高い。だが、成金趣味の敷居の高さではなく、その建物に入る者にも吉村順三と同じ「趣味の良さ」が求められるのかもしれない。俵屋の前にもう一度戻ったぼくがそう考えた。
投稿者 nobodymag : October 14, 2005 09:08 PM
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