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December 16, 2005
『美味しい料理の哲学』廣瀬 純田中竜輔
[ book]
本書において幾度も繰り返される「骨付き肉」とは、その名の通りの「骨付き肉」そのもののことのみを指しているわけではない。この「骨付き肉」とは、すべての料理における基本構造が「骨」と「肉」によって成立している、という「仮説」のことを示している。焼き鳥における「串」と「鶏肉」にはじまり、「パスタ」と「ソース」、天ぷらの「衣」と「具」、たこ焼きの「表面」と「中身」といった様々な(ほとんどすべての)料理が、それぞれに「骨」と「肉」としての構造を持ち、そのふたつの関係の「あいだ」において料理の「美味しさ」は存在しているのだという主張を軸に、料理以外の様々なジャンル——生物学、絵画、映画、音楽等々——を交錯させながら語られている。その詳細に関しては本書を一読されれば遥かに説得力を持った回答が得られることだろう。
本書が「料理の美味しさ」についての言説の貧困さへの抵抗の意を含んで書かれていることは、「フーリエを失望されることなかれ!」と題された前書きにおいて説明されているが、あとがきにはこのようにも記されている。
「本書は一篇の小説のようにして書かれました。「骨付き肉」という名の登場人物をそのヒロインとした小説です。アリスが私たちを「ワンダーランド(不思議の国)」に誘うようにして、「骨付き肉」もまた私たちを「美味しい料理」というひとつの「ワンダーランド」へと誘います。(中略)「骨付き肉」が私にこっそり伝えたことによると、彼女は、本書から抜け出て、さらに生き続けていくことを強く希望しているとのことです。ミュージシャンにもなってみたいし、シネアストにもなってみたい……」
ここからもわかるように、この本は決して「料理を思考する」ためだけに書かれているわけではない。料理における思考が様々な他の領域へと進出することこそが重要なのである。本書の第6講は「《美味しさ》と速度」と題されている。ここではこの「速度」という言葉は、パスタ料理においてソースがパスタの形状によって多様な秩序を与えられることで異なった速度を生み出し、それこそが多様な美味しさを紡ぎあげるという論旨に使われている。だが、第6講以降では特にこの「速度」、そしてそれに伴うだろう「時間」という概念が次々と変奏されていく。第8講では「たこ焼き」の焼き時間における味の変異について、第9講のトンカツ・カツの卵とじ・カツ丼における「準安定状態」の連続的な移行、そして第10講でのフェラン・アドリアの冷製スープにおける時間に伴う変調についての記述はその最たるものだ。
「骨付き肉」が「仮説」から「登場人物」へと至るときとは、この「仮説」という「肉」が「時間/速度」という「骨」を得ることによって、その「美味しさ」が「現勢化」される瞬間にあるのだ。本書は龍谷大学で行なわれた講義の草稿をもとにして書かれているが、これもまた「速度」と「時間」における「思考」の運動を確認するひとつの徴でもあるだろう。『不思議の国のアリス』のように、右往左往しながら未開の土地を歩み続ける「ヒロイン」として、本書は、つまり「骨付き肉=仮説=思考」は、「運動」の真っ只中にある。
投稿者 nobodymag : December 16, 2005 03:35 PM
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