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January 9, 2006

スキーW杯スラローム第3戦
梅本洋一

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 久しぶりにW杯のスラロームをライヴで見た。今まで書かなかったのでルールの解説。同じコースを二度滑る。1本目は、シード順。最初の15人が第1シード。次の15人が第2シード。そして、次の15人が第3シード。2本目は1本目の順位30位までが進出し、30位から順に滑る。当然1本目はコースが荒れていない第1シード勢が有利。2本目はコースがクリーンな30位が有利。タイムのマージンはあるが、コースが荒れてくるので1本目の好成績者は不利になる。日本勢で第1シードは佐々木明だけ。第2シードには皆川賢太郎、そして第3シードは前戦で7位に入賞しトリノ五輪の代表に内定した湯浅がいる。
 第3戦の開催地アベルボーデンは本当に美しいリゾートだ。インターラーケンから西にフルーティゲン近郊だが、いかにもスイスという風情。風光明媚という形容はまさにここのためにあるという感じ。でもスラローム・バーンは難しい。前半の緩斜面から捩れた中斜面を経て、一気に崖のような急斜面に落ち込み、最後は中斜面から緩斜面、そしてフィニッシュ・ライン。多くのスラローマーが一気に落ち込む急斜面にバランスを欠いて1本目を棄権した。皆川も、そして湯浅も。こういう難しいバーンは、番狂わせが起こりやすい。勝負を賭けて滑り、フィニッシュ・ラインを運良く越えれば必ず好タイムに結びつくからだ。1本目明は8位。まあまあの順位。彼の2本目は常にフルアタックだから、ちょうどいい順位だとも言える。2本目も幸いタイムは延びない。多くの選手たちが前半の緩斜面でスピードを稼ぎ、急斜面に落ち込んでいくと減速するからだ。スキーが真横に向き、鋭いエッジングの音が耳に響くとタイムは落ちていく。
 そして佐々木明の順番。2本目22番スタート。バランスの位置が明らかに他の選手たちとは異なる。多くの選手たちが直線的にラインを狙うことでスピードを稼ごうとするのに対して、明は極めて強く内傾して、回転弧をスムーズに刻むことで速度を増していこうとする。直線的なコース取りと明のような回転弧を重視する滑りのどちらが速いかは分かり切っている。明だ。直線的なラインの次には必ず方向を変えるための鋭すぎるエッジングが待っているから、スタートとゴーを繰り返すため、加速は少ない。明の滑りは、もし最後までバランスを一定に保てれば、必ず早くゴールする。だが、バランスを保つのが難しい。スキーの真上から加圧するのではなく、重心を常に回転弧の中心方向に持っていかなくてはならないからだ。だから明の滑りは一目で分かる。そして速い。前半の緩斜面はほぼ完璧。そして中斜面の斜面の捩れも乗り越えた。急斜面。明は得意だ。多くの選手たちが警戒から減速するのに対して、明は、中斜面と同じような弧を刻んでいく。2回転、3回転、これは速い。表彰台が見える。その瞬間、明の頭の位置が余りに内傾──内足に過剰してしまう。急斜面では致命的なミスだ。およそ100メートル、斜面を滑り落ち、防御ネットに体を打ち付けてようやく止まった。Not quialified for the 2nd run。ここまで4位、14位だったが、ここで棄権。腰痛のせいで回りきれなかったのだろうか? 明がこのスタイルを貫く限り、こうしたリスクは常にある。だがこのリスクを負わない限り明に表彰台はない。