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March 10, 2006

チャンピオンズ・リーグ アーセナル対レアル・マドリー 0-0(1-0)
梅本洋一

[ sports ]

 スコアレスドローとはいえ、両チームの力を振り絞った好ゲーム。アーセナルの若いバックラインとユングベリ、フレブの中盤両サイドの頑張りが素晴らしかった。ラウレン、アシュリー・コール、ソル・キャンベルと不動のバックラインが次々に故障し、右からエブエ、トゥレ、センデロス、フラミニのラインはヴェンゲルの選択ではない。単に他に選択肢になかったからこうなった。だが、このゲームを見る限り、急造どころかプレミアで何シーズンも戦ってきたようなコンビネーションとポジショニング。フェイマス・バック4と呼ばれたアーセナルのバックラインなど知らない人がもう多いだろうが、エブエはとりあえずラウレンよりもずっと高度の右サイドであり、フレブと協働してジダン、ロベカルを完封した。相撲取りロナウドは運動不足の中年太り、ラウルだけが頑張るレアル攻撃では脅威はない。アタックでは、フレブがロベカルを翻弄し、レジェス、ユングベリが右サイドをディアゴナルに走り、中盤をジウベルトとセスクが支配する。アーセナルの完勝だ。
 それにしてもレアルの衰えぶりはいったい何なのだ。昨日のバルサのフットボールが素晴らしかっただけに、レアルの退潮ぶりが一層目立つ。「銀河系」などと呼称され、高額選手を買い集めるだけで良いチームはできない。アーセナルのバックラインとレアルの選手の平均年齢を比較してみるとそのことが明瞭になるだろう。そしてレアルのパスの速度はアーセナルのそれの半分以下。カウンターは無理だ。カウンターの中心になるはずのロナウドの速度とエブエやトゥレの速度をくらべるだけでレアルに勝ち目のないことも明らか。ペレス会長の辞任、経験のないカロ監督ではとてもレアルという「巨人」を統括することはできないだろう。ラウルとグティ、そしてイケル・カシージャスなどレアルのユース育ちの選手だけがこのチームを必死で引っ張っていこうとしているようだ。悲壮感さえ漂う。
 ヴェンゲルは、一度頂点に登り詰めたチームを少しずつ解体しながら別のチームを構築していこうとする。流れるようなパスワークのフットボールを当然基本にしつつも、そこに身体能力の高い若手を使い、リズムが崩れていようが、彼らの成長を期待する。もちろんゲームによって好不調の波はあるにせよ、使い続けることでしか選手は成長しないのだ。すでに貫禄さえ漂うトゥレ、セスク、そしてすっかり落ち着いたセンデロス。ジウベルト、アンリというチームの芯を保存しながら、若手を登用していく。こうした起用はクラブチームの監督にしかできない。ヴェンゲルが代表チームの監督のオファーを断り続け、頑迷にアーセナルにこだわるにはやはり理由があるのだ。