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March 27, 2006
『哀れなボルヴィーザー』ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー須藤健太郎
[ cinema]
いま公開されいる封切り作にも見たいのはいっぱいあるのだけど、アテネにファンスビンダーを見に行く。すると、すごい行列。暇なときにブログなど見ていて思うが、毎日のように封切り作にもこうした特集上映にも駆けつけるための時間とお金と気力はいったいどこから湧いてくるのだろう。まだまだ先は長い。なんとか工面しつつ、テンションを保たないとやっていけない。
それにしてもこの『哀れなボルヴィーザー』の主人公は、名前だけのそっけない原題に「哀れな」という形容詞をつけてしまいたくなるぐらい「哀れな」男なのだ。地元の美しい娘ハニーと結婚するというオープニングを持つこの映画は、しかし幸せな結婚生活とは正反対のストーリーを語る。田舎の駅長を真面目に務めるボルヴィーザーは知らないうちに、最愛の妻の数々の裏切りにあっていく。友人との不倫、妻の浮気相手への投資、そして度重なる妻の浮気……。町のみんなに噂をされてしまうように、妻の暴走を止めることのできない彼は、たったひとりで哀れな現実を受け入れるしかないのだ。
しかし彼が仮に「哀れ」だとしても、それは彼が妻の裏切りに会ってしまうからだろうか。彼にとって本当に哀れなのは、刑務所に収監されることで、妻と一緒に暮らし、妻と会って会話をすることができなくなることではないか。離婚の申し出のために弁護士が妻の代わりに面会に来て、彼女と会うことができないから、彼は苦しむのではないか。ハニーがいくら浮気を繰り返そうと、そんなことは、人生をかけて彼女を愛する彼にとって些末なことにすぎない。いやそれは、嫉妬に駆られ、妻をつい問い詰めてしまうくらいには過酷な出来事ではあるだろう。しかし、彼女と生活をともにし、ちょっと会話を交わすだけでも彼にとっては十分に幸せなのだ。そしてだからこそ、妻の数々の濫行に目をつむり、とにかくその共同生活を続けようとするのではないか。「哀れ」という形容が連想させがちな気の弱さからはほど遠い、一貫した確信とも言うべきものが彼の身体には通底しているのだ。
『映画は頭を解放する』の作品解説には、「映画の実質的な主役はむしろ妻のハニの方である。彼女の心理描写が深いのに対し、ボルヴィーザーは型に嵌った木彫り人形のように行動し、喋るのだ。ボルヴィーザーが「人間的な」様相を現して「主役」になるのは、彼が破滅するときである」とあるが、彼には最初から最後まで十分な存在感があった気がする。実際、彼が悪夢にうなされ、自分を見失ってしまうのは、妻を愛することができなくなったからであって、生きることと愛することが同義であるひとりの男の肖像をこの映画はこれでもかと描く。ともあれ、いつかファスビンダーの40本に及ぶ作品の数々を全部見たい。
投稿者 nobodymag : March 27, 2006 12:21 AM
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