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January 24, 2007

「シアタープロダクツの現場」@パルコミュージアム
結城秀勇

[ architecture , photo, theater, etc... ]

設立5周年を迎えたシアタープロダクツの展覧会が、渋谷パルコミュージアムで1月29日まで開催されている。「シアタープロダクツの現場」と題されたこの展示では、事務所やアトリエをこの会期中会場の中に設け、まさにその場で、デザインがなされ、パターンがひかれ、工場とのやりとりがあり、営業、そして打ち合わせが行われる。一枚の布から引きはがされた断片がTシャツになり売買される、そんな方法で、流通の末端にある「買う」という行為を「舞台」に引き上げた彼らにふさわしい展示だろう。
そのひとつひとつが商品でもあるスカートの「森」の中の道を抜けると、そこに「現場」がある。その手前のスペースで連日「打ち合わせ」と称したトークショーが企画されている。この日は、デザイナーの武内昭と、これまで彼らのショーや店舗のデザインに関わってきた藤原徹平のふたり。「シアタープロダクツの店舗設計」という題目で、架空のシアタープロダクツ初の路面店の企画のために「打ち合わせ」がなされる。
その出会いのきっかけが「ご近所さん」だったというふたりの間でなされる会話の中には「街」の隠喩がときおり現れる。典型的な施主と建築家との関係とはまったく違う、シアタープロダクツというブランドとのコラボレーションを藤原は「ご近所付きあい」のようなものと表現する。いまはまだその計画のない路面店が実際に出店されることになれば、もちろんその店がある街のことを考えなければならなくなるのは当然だが、現在パルコとラフォーレに出店しているこのブランドが、渋谷や原宿という街よりもひとつ小さな区画、商業ビルというひとつ「街」の中で営業していること。そもそもデパート建築が、外部を必要としないひとつの街を作り上げるというものであること、など。
来るべき路面店のモデルとして、藤原が何枚かの風景写真を提示する。バザーのテント、ガソリンスタンド、ル・コルビュジエのサヴォワ邸、大分のアーケードのある商店街など。太陽のような模様の独特のモチーフを入り口に掲げた、大分のある寂れたアーケードについて、「こういうものも30年も経てば壊されてしまって、きっとガラスと鉄骨でできたこぎれいなものに改修されてしまうんです」と藤原が語った際に、「30年は短いですね!」と言った武内のリアクションに驚く。建築よりもはるかに短いスパンを持っているはずの服飾というジャンルに関わりながら、このようなリアクションをした武内の感覚に共感する。
それは「田舎のおばちゃんにこそヨーロッパを感じる」と発言するある種の倒錯とも関わっている。地理的な距離感や歴史的な距離感がほとんど消失していく中で、渋谷六本木間の距離(普段シアタープロダクツの「現場」は六本木にある)や、各シーズンの差異など、微視的な距離感が非常に現実的な問題として浮上してくる。それをもちろん現実的な問題として対処した上で、さらに大きなスケールで物事を見る視点。すぐそばにある30年間の時間の流れの中に、あるいは日本の片田舎に突如出現したヨーロッパの中に、面白さを見出す感覚。それは単なる温故知新やリバイバルとも異なるものだ。そしてそれは、かつて夢想された未来に決して追いつかない、レトロフューチャリスティックな現在を生きる私たちにとても必要な感覚に思える。


「シアタープロダクツの現場」