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February 12, 2008

『パリ、恋人たちの二日間』ジュリー・デルピー
結城秀勇

[ cinema , cinema ]

 もちろん『ビフォア・サンセット』でアカデミー賞脚色賞を受賞した彼女のつくるダイアローグは、テンポよくリズミカルに観客を魅了する。それなりの文化レベル(?)の高さを感じさせるセリフもいやみじゃないし、ビル・アーケム橋で『ラストタンゴ・イン・パリ』の真似をするシーンも、やり方によっては凄く恥ずかしいものにもなりかねないのに、恋人たちの微笑ましいやりとりとして出来上がっている。この映画の見所がジュリー・デルピーとアダム・ゴールドバーグのカップルのやりとりにあるのは明らかである。
 ふたりはヴェニスでのヴァカンスからニューヨークへの帰路の途中、デルピー演ずるマリオンの実家があるパリに2日間滞在する。そこでのゴールドバーグは、ジュリー・デルピーの家族や知人の集まりの中で完全なストレンジャーとなり、ふたりの関係は次第に気まずくなっていく……、といった物語は『イタリア旅行』の男女逆転版である(ラストの祝祭シーンからも明瞭だ)。しかし彼らが関係の危機を克服するのは、彼らが見たり聞いたり体験したものによってではなく、この映画が持ち味とする会話の妙によってですらない。そこに被せられたデルピーのモノローグによってである。
 この映画には「スモール・ワールド」からはじき出されたゴールドバーグから見た世界の姿はない。ただデルピーの世界があるだけだ(ちなみに、彼女が「見た」世界ではない。なぜならマリオンの視界は網膜の損傷によって穴ぼこだらけのはずだから)。それは楽しい世界だが、自分には居場所がないようにも感じた。

初夏、恵比寿ガーデンシネマにてロードショー