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February 26, 2008

2008シックスネイションズ フランス対イングランド 13-24
梅本洋一

[ architecture , sports ]

 フランスのメディアの多くはワールドカップの再現を見ているようだと嘆いている。確かにイングランドのフランスの長所を消すラグビーに完全にはまって、フランスは、それまでのフレアをまったく発揮できずに敗れ去った。ゆっくりとしたゲーム運び、スクラムの制圧、ラインアウトのプレッシャー……。速度と展開を消し、FWの力勝負とPG合戦に持ち込んで勝とうとするイングランドの戦略にフランスははまりこんでしまった。
 パラ、トラン=デュックの若いハーフ団は確かに勇敢だったが、イングランドの老練きわまりない戦略の裏をかくまでのゲームプランはない。同じことは、ヘッドコーチに就任して3戦目のマルク・リエヴルモンについても言えるだろう。スコットランドとアイルランドには、のびのびと「普通に」やれば勝てたが、百戦錬磨でしかも両翼を強化してきたイングランドには、のびのびと「普通に」やっただけで勝ちを収めることは不可能なのだ。ウィングまで速く回すだけでは、ディフェンスが付いてくる。何よりもイングランドのディフェンスはスペースを消すことに徹しているから、クレールとルージュリにボールが渡ったときには、ふたりのスペースはタッチラインの外側だけ。スローテンポのゲーム運びの中心は何と言ってもスクラムだから、イングランドは徹底してスクラムにプレッシャーをかけてくる。経験値の低いフランスのプロップは、ストレスが溜まるだけだ。
 それでも勝つチャンスはあった。後半10-16からフランスがイングランド陣に攻め入り、ペナルティを得た場面。スザルゼフスキが相手に報復してペナルティが逆に取られた。ここで3点でも返しておけばその後のゲームは変わったかもしれない。だが、もちろん、こうした反則が起こるのも、それ以前、フランスの選手たちにかなりのストレスが溜まっていたからだろう。
 レキップ紙のコンサルタント、ローラン・ベネゼクは、センターのふたり(トライユ=マルティ)に別の人材を、と提案しているが賛成だ。何度も書くが劣性のスクラムを立て直すべく歴戦の勇者を再招集するとか、バックス勝負というストラテジーを変更するとか、などの対処療法よりも、時間はかかっても、ラポルト時代に失われた何かを取り戻し、フレアへの方向を模索する方が健全だろう。イングランドがフランスに浴びせた冷水は、リエヴルモンで一気にフレアが戻ったと勘違いする──ぼくもそのひとりだったかもしれない──楽観主義に警鐘を鳴らしている。ラポルトの8年間を精算するためには、3ゲームでは少なすぎる。