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April 09, 2008
『ノーカントリー』ジョエル&イーサン・コーエン梅本洋一
[ cinema]
『ノーカントリー』は、それまでぼくらが持っていたコーエン兄弟についての先入観を払拭してくれた。確かに多くの人たちが言うようにコーエン兄弟の多くのフィルムは、とても出来の良い映画学校の卒業生の作品のようだった。ひとつひとつのショットが適切で、物語を過不足なく語る技術が秀でていて、何よりも映画には歴史があることを心得ていて、その中の最良の部分を自らの作品に取り入れてきた。それは別の言い方をすれば、コーエン兄弟はオリジナリティがなく、彼のフィルムを見る代わりに、DVDで過去のスタンダードなアメリカ映画を見れば、あえてコーエン兄弟の新作に足を運ぶ必要はない、ということでもあった。もちろん『ファーゴ』のような例外もあって、あのフィルムを包む白い雪がすべての足跡を消してしまうように、映画史に痕跡を探すよりは、周囲の白い何もない世界に目を奪われるフィルムもあったが。
普段ならコーエン兄弟のフィルムにつきまとう巧みさがこのフィルムには欠落している。何しろ一応の主人公であるベル保安官(トミー・リー・ジョーンズ)、殺人鬼シガー(ハビエル・バルデム)、追われる男であるモス(ジョシュ・ブローリン)の3本の糸が結び合わされるまでずいぶん時間がかかる。それぞれのショットに明証性が溢れているので、この物語がどう語られるのか、という興味を繋ぐ以前に、ショットやシーンの素晴らしさに目を奪われ、そこに噎せ返るような緊張感に捉えられてしまう。さらに、少しずつ交錯する糸が結び合わされても、ベル保安官をめぐる糸は常に他の糸よりも遅くしか縫合されない。ナラティヴよりも、眼前の光景が強調され、眼前の光景に遅れてしか到着しないベル保安官は、「以後の光景」にしか出会うことがないのだ。遅れること、遅延すること、それは限りない徒労感を伴う。それぞれのショットに溢れる緊張感とこの徒労感。次第に徒労が緊張を上回り、フィルム全体が疲労していく。男たちは次第に傷つき、死体の数も増えていき、何も解明されない代わりに、どこまでも続く砂漠のような底なしの疲労がこのフィルムを覆い尽くす。そして、シェリフであるベルは、このフィルムが背景にしている1980年代においてさえ、すでに自らが遅れてきた存在であることを知っている。シェリフという呼称が、西部開拓時代にこそ相応しくもうこの時代にはそぐわないように。
ぼくらは去年『ゾディアック』を見て、同じような徒労感を味わった。自らが動いても、運命の一端を変えることなど不可能であるような徒労を。そして、常に徒労から遠く、映画の予見を信じているように見えたコーエン兄弟もまたあの徒労にたどり着いてしまった。これは重要なことであるような気がする。
全国ロードショー中
投稿者 nobodymag : April 9, 2008 12:05 AM
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