journal
« previous | メイン | next »
May 26, 2008
『PASSION』濱口竜介結城秀勇
[ cinema]
「東京藝術大学大学院映像研究科 第二期生修了制作展」が渋谷ユーロスペースで開催されている。昨年に引き続き、すべての作品の技術の高さに目を見張るが、濱口竜介監督『PASSION』には、そうした水準を遙かに超えた感銘を受けた。5/29(木)の上映には、おそらく会場の客席は観客で埋め尽くされるだろうが、それだけではないより多くの人の目に触れるべき作品であるように思う。
30歳を目前にした幾人かの男女。あるカップルは結婚を、あるカップルは出産を控え、またそれとは別に男女間のトラブルが転がっている。こんな風にストーリーを説明したところで極めて月並みでありふれた映画にしか思えないかもしれない。事実それは、とても月並みでありふれた言葉、そしてあまりに率直すぎる言葉たちによって埋め尽くされている。そしてそれゆえ(逆説的ながら)私たちは登場人物の誰ひとりに対しても完全な自己投影を図ることができないことに気付くだろう。
それが技術的な欠陥などではなく極めて明確な演出によるものであることが、中学校教師であるヒロインが授業を行う突出したシーンで誰の目に明らかになるだろう(登場人物がなにか仕事をしているのはこの場面だけだ)。そこでは「暴力」にまつわる対話が行われる。壇上に立つひとりの人間と、それと向き合う複数の生徒たちという極めて明確な権力構造が、より根元的な暴力によってずたずたになってゆく有様には、目を見張るばかりだ。そしてこのシーンは、この映画の残りのすべての部分の根底に流れているものを垣間見せているに過ぎない。先程、登場人物の誰にも完全な自己投影をすることができないと書いた。私が登場人物のひとりだったなら、こんな人たちとなぜ同じ場所にいるのか、疑問に思うことだろう。そして実際に彼らはそのことに疑問も抱くし、嫌悪感を覚えもする。なぜいまここにいるのか。その問いは、意志や欲望を遠く離れたところから発せられるのだということを、この作品は115分という極めて適切な長さを用いて描き出す。
最後に極めて個人的なことなのかもしれないが、どうしても書いておきたいことをひとつ。私にとって極めて重要なことは、この映画が横浜で撮られたということだ。それを言ったら同時に上映される何本もの映画がそうなのだし、制作的な面からそうせざるを得なかったという事情もあるだろう。それでもこの『PASSION』は、かつてこの街が港町であった頃に誇っていた都会性を映画内に復活させ、同時に現在のこの街にある日本中の地方都市を凝縮したかのような没個性を滑り込ませている。暴露でも告発でもないやり方で、ただ積み重なるショットが互いに批判しあうようなやり方でゆっくりと着実に。それはこの映画の人物たちを見つめる視線とまったく同様なやり方だ。
そして115分の上映時間が過ぎ去ると、何もなかった場所に、確かに映画がある。そのことに感動せずにいられない。
5月30日まで、渋谷ユーロスペースにてレイトショー上映中
投稿者 nobodymag : May 26, 2008 10:56 PM
Search
Archive
- May 2011(12)
- April 2011(5)
- March 2011(3)
- February 2011(5)
- January 2011(7)
- December 2010(3)
- November 2010(8)
- October 2010(7)
- September 2010(5)
- August 2010(2)
- July 2010(4)
- June 2010(8)
- May 2010(5)
- April 2010(7)
- March 2010(5)
- February 2010(8)
- January 2010(11)
- December 2009(12)
- November 2009(7)
- October 2009(5)
- September 2009(7)
- August 2009(6)
- July 2009(15)
- June 2009(13)
- May 2009(13)
- April 2009(17)
- March 2009(22)
- February 2009(25)
- January 2009(7)
- December 2008(13)
- November 2008(16)
- October 2008(14)
- September 2008(7)
- August 2008(10)
- July 2008(5)
- June 2008(12)
- May 2008(13)
- April 2008(11)
- March 2008(6)
- February 2008(16)
- January 2008(12)
- December 2007(15)
- November 2007(9)
- October 2007(5)
- September 2007(9)
- August 2007(16)
- July 2007(13)
- June 2007(18)
- May 2007(16)
- April 2007(9)
- March 2007(19)
- February 2007(16)
- January 2007(18)
- December 2006(9)
- November 2006(7)
- October 2006(9)
- September 2006(11)
- August 2006(11)
- July 2006(6)
- June 2006(7)
- May 2006(9)
- April 2006(8)
- March 2006(19)
- February 2006(19)
- January 2006(4)
- December 2005(6)
- November 2005(4)
- October 2005(15)
- September 2005(19)
- August 2005(23)
- July 2005(14)
- June 2005(28)
- May 2005(21)
- April 2005(22)
- March 2005(40)
- February 2005(17)
- January 2005(8)
- December 2004(13)
- November 2004(21)
- October 2004(15)
- September 2004(8)
- August 2004(19)
- July 2004(11)
- June 2004(13)
- May 2004(13)
- April 2004(10)
- March 2004(19)
- February 2004(7)
- January 2004(26)
- 2003
- 2002
- 2001