journal
« previous | メイン | next »
January 24, 2009
『我が至上の愛 アストレとセラドン』エリック・ロメール梅本洋一
[ cinema]
ずいぶん前のことになるが、「別冊宝島」が映画特集をしたことがあった。その中に安井豊が、とても面白いロメール論を書いていた。タイトルは『いい加減にしろよ、じいさん』だったように思う。たとえば、ロメールの歴史物をめぐって、バザンに遡って写真映像の存在論を論拠に、まじめな文章をぼくも書いたことがあった。この『我が至上の愛』にしても、耳に響いてくる変なフランス語──17世紀の書き言葉そのまま──を『O侯爵夫人』などと比べてまじめに論じることもできるだろう。ロメールがなぜこうしたことをやっているのかと解説する気になれば、『美の味わい』の訳者としてもいくらでも解説することができる。だが、このフィルムを見ていて大笑いしたぼく自身を思い起こせば、今、そうやってしたり顔でロメールを「解説」する気にはぜんぜんなれない。安井豊の文章のタイトルを、そのまま今年89歳になるロメールに言いたい。「いい加減にしろよ、じいさん」と。
でもまちがえないで欲しい。「いい加減にしろ」と言っても、もう「やめとけよ」という悪い意味ではまったくない。笑いをこらえて──否、ぜんぜんこらえられなかったけれども──顔を崩したまま、「いい加減にしろよ」という感じだろうか。もちろん、これでいいのだ。この作品の透明感がすごい。だから「いい加減にしろよ」と言いたい。虫の声や葉のざわめき、木々の揺れを伝える音──そういったもののすべては、それまで、この「じいさん」が50年近くにわたって映画で実践してきたものの集大成だ。木々の緑色はどうだ。曇天から晴れ間が出てくる光の変容はどうだ。若い女性たちの羽織る衣裳から漏れる乳房の揺れはどうだ。若者たちを見つめる老人の眼差しはどうだ。やはり、「いい加減にしろよ、じいさん」は正しい。ひたすらセラドンを愛しているアストレを演じているステファニー・クレアンクールよりも、ちょっと意地悪な感じのガラテを演じているヴェロニク・レーモンの方がぼくの好みではあるけれども、ロメールが、ぼくの年齢で撮った『愛の昼下がり』の頃は、ロメールはズーズーのちょっとエッチな感じが好きだったらしいので、生きているかどうかも分からないが、あと30年もすれば、ぼくもステファニー・クレアンクールのような若さそのものの身体を好むようになるのだろうか、などと考えてもみた。ロメールの場合、昔からロリコンだったようだし、結局、彼のどの作品を見ていても、ちょっと危険な感じがするけれどもやたら美しい女性よりも、より若く純粋で待っている女性の方が勝利を収める。『愛の昼下がり』もそうだし、『モード家の一夜』では、フランソワーズ・ファビアンよりもマリ=クリスティーヌ・バローが選ばれてしまうし、『海辺のポーリーヌ』では、アリエル・ドンバールよりもアマンダ・ラングレの方にロメールの親愛なる眼差しが向けられている。やはり、もう一度、「いい加減しろよ、じいさん」と言いたくなった。ちょっとしつこいね。
銀座テアトルシネマほか全国順次ロードショー
投稿者 nobodymag : January 24, 2009 09:45 PM
Search
Archive
- May 2011(12)
- April 2011(5)
- March 2011(3)
- February 2011(5)
- January 2011(7)
- December 2010(3)
- November 2010(8)
- October 2010(7)
- September 2010(5)
- August 2010(2)
- July 2010(4)
- June 2010(8)
- May 2010(5)
- April 2010(7)
- March 2010(5)
- February 2010(8)
- January 2010(11)
- December 2009(12)
- November 2009(7)
- October 2009(5)
- September 2009(7)
- August 2009(6)
- July 2009(15)
- June 2009(13)
- May 2009(13)
- April 2009(17)
- March 2009(22)
- February 2009(25)
- January 2009(7)
- December 2008(13)
- November 2008(16)
- October 2008(14)
- September 2008(7)
- August 2008(10)
- July 2008(5)
- June 2008(12)
- May 2008(13)
- April 2008(11)
- March 2008(6)
- February 2008(16)
- January 2008(12)
- December 2007(15)
- November 2007(9)
- October 2007(5)
- September 2007(9)
- August 2007(16)
- July 2007(13)
- June 2007(18)
- May 2007(16)
- April 2007(9)
- March 2007(19)
- February 2007(16)
- January 2007(18)
- December 2006(9)
- November 2006(7)
- October 2006(9)
- September 2006(11)
- August 2006(11)
- July 2006(6)
- June 2006(7)
- May 2006(9)
- April 2006(8)
- March 2006(19)
- February 2006(19)
- January 2006(4)
- December 2005(6)
- November 2005(4)
- October 2005(15)
- September 2005(19)
- August 2005(23)
- July 2005(14)
- June 2005(28)
- May 2005(21)
- April 2005(22)
- March 2005(40)
- February 2005(17)
- January 2005(8)
- December 2004(13)
- November 2004(21)
- October 2004(15)
- September 2004(8)
- August 2004(19)
- July 2004(11)
- June 2004(13)
- May 2004(13)
- April 2004(10)
- March 2004(19)
- February 2004(7)
- January 2004(26)
- 2003
- 2002
- 2001