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March 2, 2009

ラグビー日本選手権決勝 三洋対サントリー 24-16
梅本洋一

[ cinema , sports ]

 すごく忙しい土曜日だった。早朝、何と現地で金曜夜開催になったシックスネイションズのフランス対ウェールズを見て、ゴゴイチには、このゲーム。そして深夜には、スキーのノルディック世界選手権のラージヒル団体。もちろん、各ゲームの間には日常の細々したことを片づけているわけで……。
 時系列で書こう。
 ますフランス対ウェールズ。レ・ブルーの監督も、シックスネイションズは土曜日の午後3時キックオフというものだ、と苦言を呈している。ぼくも賛成。もちろん、そうすれば、バカ早く起床しなくてもいいわけだが、同時に、重んじて良い慣習だって存在するはずだ。テレビのないころから、土曜の午後3時から五か国対抗がキックオフされていた。これはラグビーがテレビのゴールデンタイムに合わせるのではなく、テレビがラグビーに合わせるべきだ。それがスポーツへの敬意だろう。
 ゲームの方は、予想に反してフランスが健闘。今ではウェールズに移ってしまった「フレア」を叩きつぶすためには、目の前にいる敵を一発のタックルで倒し続ける。戦術はそれだけ。マルク・リエヴルモンの、もうひとつのフットボールのようなターンオーヴァー制は理解に苦しむ。だがホームでウェールズを下し、なんとか面目を保った。
 そして三洋対サントリー。前半はサントリーが良い感じで攻め、PG3発でリード。だが、トライが取れない。どうなんだろう? エリアマネジメントもクレヴァーだけれども、そして両センターも良かったけれども、ウェールズに勝ったフランスのような「行くぜ!」という感じが乏しかった。それに対して三洋には何か雰囲気があった。
 前に曽我部を誉めたことがあった。ジャパンでもいいんじゃないか、と書いた。でも、このゲームを見る限り、フレアに乏しい。否、フレアに乏しいのは曽我部ばかりじゃない。サントリーというチームそのものにフレアが乏しい。これはチーム・マネジメントの難しいところで、一応、教師という職にあるぼくもいつも考えることだけれども、教えることと体得することの差異と言ったらいいのだろうか、このエリアではこう攻める。このエリアではキック、ここはパス、といった基本的な展開の中での決め事を教えるのは当然なのだが、教えれば教えるほど、チームがメカニカルになっていって、つまりは、相手も同じことを予知することになる。何度かサントリーのアタックを見ていると、次の一手がだいたい読めてしまう。するとディフェンスだって難しくない。つまり、難しいのは、ぼくらが予想する次の一手以上の何かを思考して、実行することであって、そのことは「教育」によって可能になることではない。
 確かに後半の三洋のトライはインゴールノックオンだったし、パスはスローフォワードだったかもしれないが、見ているぼくらもだんだん三洋が勝ちそうな気がしてきて、曽我部のプレーも精彩がなくなってくる。何かを裏切る、味方を裏切る、監督を良い意味で裏切る。そのことによって、スポーツの別の領域が広がる。
 夜のジャンプでもそう。団体戦の点数を計算して何メートル飛べばいい。という風に考えるのではなく、すごく遠くに飛ぶことだけ考えればいい。38歳の岡部だけがそうだった。2本目のヒルサイズ越えのスーパージャンプはすごかった。10年前なら、誰も計算しなかった。原田も、船木も、齊籐も、そして岡部も、俺はすごく遠くまで飛ぶぞ、と思って次々にW杯に勝利を収めていた。今、シュリーレンツァウワーが、ロイツルが、そしてシモン・アマンがそういった心境だろう。あそこまで飛ぶとこうなる、と計算するのではなく、どこまでも飛ぶぞ、と覚悟を決めること。岡部の頑張りで日本は団体戦で久しぶりの銅メダル。ぼくらの予想は裏切られた。