journal
« previous | メイン | next »
March 11, 2009
『あとのまつり』瀬田なつき田中竜輔
[ cinema]
その街の人々は「忘れる」ことを恐れている、でもそれって本当に怖いことなのだろうか。『あとのまつり』の主人公であるローティーンの少女が抱く疑問はそれだ。だって「アディオス」とどこかに行ってしまったかのように見えた先輩は、あっというまにそこにまた戻ってきたじゃないか。ついさっき街路ですれ違ったキスを交わしていた恋人たちも、平手打ちを繰り出す大喧嘩をしてはいるけれども、バンドと一緒にダンスを踊ったその場所にいるじゃないか。「はじめまして」という言葉は、「忘れる」ことを恐れるための言葉じゃなくて、「出会う」ことを喜ぶための言葉であって、ショートパンツとロングスカートが、赤いパーカーと緑色のカーディガンが交換可能なように、その言葉の意味を「出会う」ことにスルッと着替えてやればいい。そうやって少女は携帯電話をひったくってきっかけを作り、少年とともに走り出す。横浜から東京まで一瞬だ。
それでも、それでもやはり「忘れる」ことは、哀しいことで、残酷なことかもしれない。少女はそれに直面する。『あとのまつり』はその哀しさも残酷さも否定はしない。でもそのかわりに、すべて肯定してくれる。その数十年後の世界、少女が「物語」を見つめるパソコンのモニターには、「どっかの誰かさんにそっくり」な少女がいる。そのモニターのフレームが、ゆっくりとこの映画のフォーマットに重なっていくとき、『あとのまつり』は風景が光の粒子へと還元されていく場所へ少女を導く。そこで少女が出会ったものについては是非実際に目にすることでご確認いただきたいが、それは、まぎれもなく「映画」そのものとの出会いにほかならない。「物語」と「現実」は決して対立するものなんかじゃなく、そのどちらにも共有されるものがあって、そしてそのどちらかが欠けてしまってもたどり着けない場所がある。そこに彼女の本当の「はじめまして」が生まれている。このフィルムが垣間見せてくれるのはそんな瞬間だ。
つまり 『あとのまつり』というフィルムを貫いているのは「行ったり来たり」の運動だ。「世界=現実」と「映された世界=フィクション」が前提としてあるのではなく、その双方の世界を生み出し、そしてダンスのように結び付ける運動として「映画」があるのだと、『あとのまつり』は清々しく宣言してくれている。少女が自らの血で記した「彼方からの手紙」は、風船とともに中国へ、北朝鮮へ、アメリカへと「奇跡」のように届くかもしれないし、あるいは東京のどこかの路上で力尽きるのかもしれないけれども、「それはまた別の物語」だ。だからその前にいまはとりあえず、少年と少女の、そして瀬田なつきの記してくれたこの素晴らしい『あとのまつり』という手紙に、「はじめまして」と多くの人が出会わんことを。
桃まつり presents kiss ! 3月14日(土)~3月27日(金) 渋谷ユーロスペースにて連日21:00より!
投稿者 nobodymag : March 11, 2009 12:01 AM
Search
Archive
- May 2011(12)
- April 2011(5)
- March 2011(3)
- February 2011(5)
- January 2011(7)
- December 2010(3)
- November 2010(8)
- October 2010(7)
- September 2010(5)
- August 2010(2)
- July 2010(4)
- June 2010(8)
- May 2010(5)
- April 2010(7)
- March 2010(5)
- February 2010(8)
- January 2010(11)
- December 2009(12)
- November 2009(7)
- October 2009(5)
- September 2009(7)
- August 2009(6)
- July 2009(15)
- June 2009(13)
- May 2009(13)
- April 2009(17)
- March 2009(22)
- February 2009(25)
- January 2009(7)
- December 2008(13)
- November 2008(16)
- October 2008(14)
- September 2008(7)
- August 2008(10)
- July 2008(5)
- June 2008(12)
- May 2008(13)
- April 2008(11)
- March 2008(6)
- February 2008(16)
- January 2008(12)
- December 2007(15)
- November 2007(9)
- October 2007(5)
- September 2007(9)
- August 2007(16)
- July 2007(13)
- June 2007(18)
- May 2007(16)
- April 2007(9)
- March 2007(19)
- February 2007(16)
- January 2007(18)
- December 2006(9)
- November 2006(7)
- October 2006(9)
- September 2006(11)
- August 2006(11)
- July 2006(6)
- June 2006(7)
- May 2006(9)
- April 2006(8)
- March 2006(19)
- February 2006(19)
- January 2006(4)
- December 2005(6)
- November 2005(4)
- October 2005(15)
- September 2005(19)
- August 2005(23)
- July 2005(14)
- June 2005(28)
- May 2005(21)
- April 2005(22)
- March 2005(40)
- February 2005(17)
- January 2005(8)
- December 2004(13)
- November 2004(21)
- October 2004(15)
- September 2004(8)
- August 2004(19)
- July 2004(11)
- June 2004(13)
- May 2004(13)
- April 2004(10)
- March 2004(19)
- February 2004(7)
- January 2004(26)
- 2003
- 2002
- 2001