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March 16, 2009

シックスネイションズ2009 イングランド対フランス 34-10
梅本洋一

[ book , sports ]

 キックオフから60秒でフランス・ラインのギャップを突いて、クエトーがトライ。拮抗したゲームになるというぼくらの予想が見事なまでに外れた。前半はイングランドのトライ・ショー。なんと5トライをあげ、29-0。フランスはこの時点でタオルだ。
 レキップ紙を読んでみると、リエヴルモンを初め、キャプテンのナレ、SHのパラ、この日SOに入ったトラン=デュックも、一様に開始1分にトライ奪われ浮き足立ち、自分の存在を忘れてしまったと告白している。フラッドのコンヴァージョンが決まっても、まだ7-0。なのにパラが肝腎のPGをイージーな位置から2本連続して外し、ますます焦り、無謀なまでに前に出るタックルを外されては裏を突かれ、せっかく確保したボールをノックオンしていく。マーティン・ジョンソン率いるイングランドは、このシーズンは散々の出来。これまでに2敗し、どのゲームでもシンビンを喰らう乱暴者の集団、ディシプリンもへったくれもない。フランスにとっては、こういう状況でトゥウィッケナムに乗り込むというのは、イングランドを絶望の底に落とし、ジョンソンを解任に追いやる絶好のチャンスだったはずだ。
 それが惨敗。惜敗なら、絶望の淵に立ったイングランドがチームの結束とディシプリンを取り戻し、フランスを下した、という美談にもなるだろうが、この日の惨敗は、フランス・チーム(レブルー)の根本的な問題を浮き彫りにしているようにも思える。この日のゲームを重要なものと捉えて、何よりも勝利をたぐり寄せることが必要だと考えれば、若いパラにキッカーを任せるのは冒険だろう。経験の長いジョジオンならいざ知らず、そのパートナーにいくらウェールズ戦で何度かのビッグヒットがあったからといって、マテュー・バスタローを定着させるのは早過ぎるだろう。デュソトワールは、「俺たちはまだ子どもさ」と嘆息をつくが、これほど短所だけが目立つゲームも余りないだろう。
 どうすれば良かったのか? レキップ紙のアラン・ペノーは、シャローでつめていくディフェンスではなく、このチームの速度ならばドリフトの方がいいのではないか、と言っている。キックオフ直後のラインブレイクを見れば、ペノーの発言も分かる。だが、リエヴルモンの去年のスローガンがフレアの復活であり、その意味で、チームのセレクションもそれを体現したものに見えたが、今年のチームはセレクションにおいて、どうしても場当たりな感が否めない。第1列へのマルコネの復帰も不可思議だ。去年は、弱体な第1列を我慢して使い続けていた。トラン=デュックの起用も、キッキング・ラグビーあるいはテリトリー・マネジメント重視のラグビーへの反論のように思えて、好感が持てた。それに対して、今年のチームは、去年のチームの弱点補強のように見えて、実は、長所も殺している。若い選手たちの長所を伸ばすには、ある程度、欠点に目を瞑って芽が出るのを待つ忍耐も必要だ。「まだ子どもさ」と嘆息する運動量の多い第3列にもっと活気を与え、彼らにウェイトを足すのではなく、速度を足し算する方法を見出す必要がある。
 今年のアイルランドの成功は、長く行動を共にしてきた選手に、今までの「誠実さ」の上にモダンな戦術を与えたことにその原因があるだろう。リエヴルモンは、選手たちへの信頼をもっと大きくし、自信を持たせ、次節で台頭するイタリアを、フレアを復活させたスピード感溢れるラグビーで圧倒することで自らの存在意義を示す必要がある。