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April 1, 2009

F1オーストラリアGP
黒岩幹子

[ book , sports ]

09年F1開幕戦における“新興チーム”ブラウンGPの完全制覇(予選1,2番手、決勝1,2位)は、このチームが今季型マシンBGP001をシェイクダウンして以降のテスト走行のタイムを踏まえれば、驚くべき出来事ではなかった。彼らのマシンは誰の目から見ても間違いなく速い。にも関わらず、当然のこととして納得されないのは、その速さが予兆として表れていなかったから(彼らのマシンのシェイクダウンはわずか1カ月前で、その時点から速かった)、その速さの理由がまだ公に解明されていないからだろう。他のチームが、彼らのマシンのディフューザー(マシン後方に空気を排出する装置)が規則違反であると提訴しているのも、見方を変えれば、いまだそのパーツにしか速さの理由を見いだせていないということではないだろうか。
確かにチーム代表のロス・ブラウンはチームがホンダのものだった1年前から、08年は我慢の年になるが様々な規則が変わる09年は勝負できるという内容の発言を繰り返していた。大多数の人々(おそらくホンダの本社の役員の何人かもそこに含まれるだろう)は、その発言を昨年の成績のひどい低迷ぶりに対する言い訳にすぎないと考えていたはずだが、ブラウンが有言実行したこと、つまり文字通り08年シーズンをまるまる捨てて、資金と人材と時間の多くをBGP001に注いだことが、今回のオーストラリアで確認されたのだ。やはりロス・ブラウンはF1随一の戦略家であり指揮官なのだ(つまり、ホンダが2000年以降の第3期F1参戦期間における最も有益な投資=ブラウン獲得の元を取らないまま撤退してしまったことは間違いない)。
だが、私がどうもブラウンGPというチームを応援する気になれないのは、その強さにドライバーの能力や尽力が寄与しているように思えないからだ。長年BARとホンダに飼殺しにされ胡坐をかいていたバトンと、昨シーズン末から3月頭まで4か月もブラジルに放置されていたバリチェロがそのマシンを“育てた”とは考えられない。もし彼らが真にマシンを育てることができるドライバーであるならば、いくら昨年のホンダのマシンの出来が悪かったとしてももう少しましな結果を出すなり、見せ場をつくるなりできたはずだからだ。
私はクルマの技術競争以上に、マシンを育て、手なずけ、闘争心を露にするドライバーの競演を見るためにF1を観戦している。だからこそ、昨年のアロンソのようにシーズンを通してチームと一緒に徐々にマシンを改良していって勝利をもぎ取ることができるドライバーが好きだ。今回のGPでは2、3位を走りながら負けん気が強すぎて共倒れしてしまったが、ベッテルとクビサのように、チームのスタッフの士気を高め、それを結果に変えていく力を持ったドライバーが好きだ(たとえばレッドブルのニューウェイが久々に独創的なマシンをデザインしたのも、ベッテルの加入があったからこそだろう)。
だから、私はブラウンGPを好きになれない。もし第5戦のスペイン以降(それまではマシンが速けりゃ勝てるコースなので)、特にモナコやベルギー・スパやモンツァなどのオールドコースでもトップ争いをするのであれば素直に態度を改めるつもりだ。