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April 01, 2009
『シャーリーの好色人生と転落人生』佐藤央&冨永昌敬田中竜輔
[ cinema]
結局のところ「シャーリー」とは、いったい誰で、いったい何なのか? 冨永昌敬の創出したこのひとりの人物は、彼をひとつの意味として形成するようなあらゆる設定やら理由づけやらの外側でずっとうろちょろしている。彼のような類の人物を「キャラクター」とか「キャラ」とかと呼んでしまう私たちの習慣はとりあえず頭から捨て置くべきかもしれない。彼はある種の「記号」として交換可能な存在ではないし、どこぞの「データベース」から創出されるような共感や共有を可能にするような情報の土台も持っていない。「シャーリー」は「シャーリー」であり、それ以外にどんな意味も価値も創出していない。
「好色人生」にせよ「転落人生」にせよ、それぞれの物語はシャーリーの「不在」に端を発している。周囲の人間はそんな空洞な彼という人物を中心に様々な出来事へと巻き込まれることになる。しかしそのシャーリーはと言えば、彼もまたあるひとりの人物に繋ぎとめられることなしに、そのひとりを自分の運動の軸とすることをなしには、それら多様な出来事を生み出し得なかったのではあるまいか。冨永昌敬曰く「ドン・キホーテ=シャーリー」に対する「サンチョ・パンサ」としての役柄であるという、杉山彦々演じる人物の名前が「中内」であることは果たしてただの偶然か気まぐれか――「中≒内」という言葉遊びの真偽はさておき――、しかしまぎれもなくこのフィルムにおいて中内はシャーリーの運動を生み出す円心としての役割を常に担っている。
「好色人生」において、いささかも金銭を生み出すことのない家事手伝いに身を費やすも周囲の女性の誘惑にふらふらと歩み寄ったり離れたりのシャーリー、あるいは「転落人生」において民宿の家主ではあるけれどもそこを訪れたひとりの女との色恋沙汰の方によっぽど熱心なシャーリー。その彼を河原で目覚めさせ、ときに彼の情事を目撃し、ときに彼の顔面に拳をぶちかまし、そして彼のある感動的な出会いの瞬間にも、やはり中内はその傍らにいて、あまつさえ常にキャメラの側に顔をくるりと向けることで、私たちに軽い笑いをもたらしながら、シャーリーというひとりの不在の中心が拠り所とする、もうひとつの中心としての役割を徹底するように乾いた表情ですっと佇んでいる。『シャーリーの好色人生と転落人生』は、シャーリーの「好色人生」と「転落人生」というふたつの物語についてのフィルムであるとともに(もしかしたらそれ以上に)、シャーリーと中内の「友情」についてのフィルムなのだ。
「シャーリー・テンプル・ジャポン」と名指されたすべての作品は形式から主題まで何もかもが異なっている。しかしそのすべての世界には関係があり、そこにいる人々は一本の映画の時間の内部では関わることはないかもしれないが、そのほんの少し外側では出会っているのかもしれないという、幸福な空想をいつも与えてくれる。それは冨永監督の前作『コンナオトナノオンナノコ』のラスト、あの素晴らしい病院でのシークエンスにあったものと同質の風通しの良さだ。その風通しを最大限に生み出している要素が、今作での佐藤央という冨永昌敬とはまったくスタイルの異なる監督との「共作」という大転換であることは言うまでもない。
どこの生まれとも知れない奇怪でメチャクチャな「方言」をまるで狂言回しのように「歌い出す」シャーリーと中内の姿にジャック・ドゥミ的な登場人物としての影を感じずにいられないのは、彼らの冒険の姿がまさに一本の大きな映画を持続的に、そして多様に生み出し続けようとする意志そのもののように見えたからだ。この謎めいた村長選挙に連なる騒動がいったいいつまで続くのかはわからないが、ここまで来てしまったのならば、あとはもうひたすら追いかけて行くだけだ。
『シャーリーの好色人生と転落人生』4/11(土)〜4/24(金) 連日20:30〜 池袋シネマ・ロサにて 2本立てレイトショー!
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投稿者 nobodymag : April 1, 2009 03:26 PM
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