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December 03, 2009
『動くな、死ね、甦れ!』ヴィターリー・カネフスキー結城秀勇
[ cinema]
開催中の特集上映にはなかなか駆けつけることができず、気づけば他の2本(『ひとりで生きる』『20世紀の子供たち』)の上映は終了してしまっていたが、なにはともあれ『動くな、死ね、甦れ!』だけでも見直しておこうとユーロスペースへ。レイトショーだがほぼ満員。
かつての記憶の中では、とにかく靴にまとわりつくぬかるみがひどく心に焼き付いていた。それは見直したいまでもそうだが、まとわりつくぬかるみの質こそが、この映画の真髄であることを再発見する。そのぬかるみはただ雪が踏みつけられて土と混じり合っただけのものではない。その黒さは炭坑町であるスーチャンの炭の黒さでもあり、その悪臭はイースト菌が発酵したせいで校庭にあふれ出した糞尿でもあり、市場で小遣いを稼ぐために売ったお茶の残りで湿った土でもあり、そしてその踏みつけられ方も五体満足な人間が両足でしかと踏み固めたものばかりではなく、松葉杖や四肢の欠損した重心の偏った身体でつけられた足跡、子供がすっころんで全身を叩きつけた痕跡でもある。そうしてその土は作品内の時系列、あるいは舞台となった時代と制作された時代(そしてそこから20 年ばかりがたった現代までも)を越えてあらゆる些細な特徴が残らず編み込まれた大地となる。それは透き通った水が覆い被さる浜辺までも続いている。
そんなことに気づかされるのも、冒頭にカネフスキー自身の声が炸裂してからひっきりなしにやむことのないモノラルサウンドのせいであり、これもまたひとつの平面、視覚を覆う黒い土と同じ平面である。子供の嬌声が、市場の喧噪が、権力者の怒号が、抗夫の歌が、よさこい節が、迫り来る列車の音が入り交じった音の壁は、黒い大地とともに映画を押し広げ、そして黒い土とともに少年や少女の行く手を阻む(よさこい節からの安直な連想かもしれないが、少年の行く手を阻む音の壁と地形的限界は大島渚『少年』を連想させもする)。
カイエ・デュ・シネマ・ジャポン4号に掲載されたカネフスキーインタヴューの中のやりとりーー「あなたはこの映画によってご自身の人生を、そして少年時代を救い出そうとなさったように思えます」「まさにそうなのです。この映画をつくることで私は命拾いをしました」ーーはいまもってこの映画を発見する者の心に浮かぶ感想と同じだろう。ソヴィエト崩壊とともに世界に放たれた「動くな、死ね、甦れ!」という叫び=歌声は、歴史の中に消え去っていくどころか、その反響はいまますます重みを持って響いている。
投稿者 nobodymag : December 3, 2009 05:50 PM
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