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December 19, 2009
『チャイニーズ・ブッキーを殺した男』ジョン・カサヴェテス結城秀勇
[ DVD]
7年間だ。7年間、クレイジー・ホース・ウェストは、コズモ・ヴィテリは、ミスター・ソフィスティケイションは、女たちは(たとえその面子は変わろうとも)、そこに在り続けた。同時に、まさにその日生まれ落ちた。プロデューサーに負債を返すことで。紙袋に入った分厚い札束をを手渡すことで。リムジンでドン・ペリニョンをやりながらカジノに繰り出すことで。たとえそれが新たな負債を生み出すことに過ぎないとしても、とにかくその日彼らは新しく生まれ落ちた。
コズモがマーティに最後の借金を返済し、近くのバーでしこたま酒をひっかけた後で、(タクシーの運転手に「帰ろう。あんたの家に」と諭された後で)生まれ変わったクレイジー・ホース・ウェストに「出勤」するコズモの姿をカメラは捉える。タクシーから千鳥足気味に降り立つコズモを捉えた俯瞰ショットでは背後に微かに重々しいシンセ音が鳴り始め、カットが変わり店の内部を映し出すところで音楽のヴォリュームが上がるように聞こえて、店内に流れているBGMだったかと少し考えるが、彼が階段を上って楽屋に行くときにはそんなはずはないことがわかる。この店では、そんな曲は流れないからだ。「コズモ・ヴィテリが選曲も演出も行う」この店にはそんな音楽はふさわしくないからだ。このオフの音源は、クレイジー・ホース・ウェストはそんな音楽の流れるはずのない場所であることを示すためだけに、しばし響き渡る。その場所に染みのようにへばりついた7年間という時間をあぶり出すために響く。
7年間。『フェイシズ』からこの映画までに経過した時間もそのくらいだろう。後生の私たちからは、『ハズバンズ』『ミニー&モスコウィッツ』『こわれゆく女』という偉大な作品を3本も撮り上げた栄光の歩みに見えるが、同時期にカサヴェテスがそんなふうに考えていたはずはない。カジノで大量の借金をこさえたコズモは、借金の支払いは小切手かと聞かれてこう答える。「口座は持ってない。稼いだ金は全部店につぎ込む」。ベン・ギャザラは、単に口でそう言うだけではなく、実際に間違いなくそうしてきた男として、コズモを演じている。
借金をなんとか返済し、賭けに負けてまた負債をつくり、負債のために人殺しさえせねばならないハメになり、それでもたとえなにが起きようともステージが上手くいくように管理する男、そのためにすべてをつぎ込む男の映画である。少し大仰すぎるので言い直せば、DVD所収のブックレットに梅本洋一が必要にして十分な言葉で的確に記している。これは「スタイル」と「愛」の映画だ。ここでいう「スタイル」とは自分の信念を曲げないとかそんな甘っちょろいものではない。借金完済の翌日に賭けで大損するような、借金よりなお酷い事態になろうとも(皆に迷惑がかからぬよう身を引くなどということもせず)ステージのマネージにすべてを注ぎ込むような、己のエゴや外敵との格闘のありようである。でなければ「愛」なんてもっと陳腐なもののはずだ。この映画にあるような重みを得ることができないはずだ。
ぐだぐだした歌、布きれ一枚で覆われたおっぱい、下品なヤジ、ただそんなもののためだけに、クレイジー・ホース・ウェストの面々はそこにいて、そのひとりひとりがスポットライトに照らし出される。それが死ぬほどかっこいい。
投稿者 nobodymag : December 19, 2009 02:07 AM
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