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June 19, 2010
『アウトレイジ』北野武結城秀勇
[ cinema]
ビートたけしがいつもとちょっと違うな、と見ていて感じた。なんだかあまりこわくないのだ。『アキレスと亀』のような作品の彼と比べてさえ。しばらくしてその理由がわかった。普通にしゃべったり怒鳴ったりしてるからだ、と。彼に限らず、椎名桔平も北村総一朗も杉本哲太も三浦友和でさえもが、「ばかやろう」「なめんじゃねえ」とほとんど無内容な暴言(?)を吐き散らす。まるで掛け合いのように繰り返されるそのやりとりは、突然の暴力として、ではなく、芸人の十八番のネタのように私を打った。それはしらじらしい予定調和という意味ではなくて、面白かったのだ。
それが一番はっきりと出ているのが、ワビを入れに来た中野英雄に指を詰めろと皆で責めるシーンだろう。「こんな小僧の指一本で済むか」「悪かったって言ってんだろ」「悪いんだったら、お前が指詰めろ」と、小気味よいリズムであれよあれよという間に安物のカッターで小指を切るハメになる中野英雄。その後に待ち受けるビートたけしの振る舞いでさえも、常人たちの振る舞いに風穴を開ける異物のアクションというよりも、展開されたやりとりに対する当然の(そして的確な)パンチラインというふうに見えた。
上映後に立ち読みした『北野武今、63歳』で自身が語っていたが、いつもと違う俳優たちとの仕事がそうした結果を作品に与えたようだ。曰く、いつもは自分の役ばかり考えていたけど今回は全員の役を考える必要があった、早いリズムの演技を演出していたら自分の演技も周りに合わせてそうなっていった、など。初期の北野作品における「軍団」の個としての異物ぶりとは裏腹に、『アウトレイジ』においてはすべての俳優が突出もせず脱落もしない微妙な均衡を最後まで保ち続けている。
初夏を思わせる日差しの中で黒光りする車、その隣で微動だにせず立つ男たちの着た背広のマットな黒、ぎらりと光る男たちの瞳の黒。それらはいみじくも加瀬亮がなんとか言う国の大使に向かって言ったように、「暗かったら誰にも見えない」ようなものだ。「ヤクザ」という「ファミリー・ビジネス」にとって、組織の構造のどの位置に誰が座るかはどうでもいい。誰もが交換可能で、それに気付かないヤツは消えていくだけ。名前ばかりの親子兄弟はばらばらになり、それぞれが孤独に、ばらばらの風景の中で死んでいく。しかし、誰でもいいはずの男たちを、ここしかない場所、ここしかないタイミングで「消費」していく北野武の手腕は見事だ。ここにはこれまでの認識を一変させる暴力があるのではなく、培われ洗練された芸がある。
投稿者 nobodymag : June 19, 2010 01:01 AM
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