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November 3, 2016

『二十代の夏』高野徹
増田景子

[ cinema ]

『二十代の夏』から溢れ出す、この圧倒的な若さに対して、一体どのように反応したらよいのだろう。

「青臭い」といって切り捨てることも出来れば、「青春」といって羨むこともできる。ただ取り違えてはいけないのは、この「若さ」が若手監督のたどたどしさや初々しさを指しているのではないということだ。確かに成熟したとは形容しがたい試行錯誤の跡のみえる粗削りだが、歩み始めた者の揚げ足をここで取る意味はないし、いくつかの原石の輝きを見逃す理由にはならないだろう。

そんな野暮なことをするよりも、個人的には、実際の島民の方だと見受けられる周りのおじさんから、ひと際目立ってしまうほどの不甲斐なさにひと笑いし、気まぐれと成り行きでチャッカリ繋がれている手に突っ込みを入れ、海岸シーンに見られる、シネフィルならばロジェやロメールといった海岸ヴァカンスの巨匠たちの名を挙げたくなるような、若さが反射した波しぶきの輝きに心奪われることをおススメしたい。

もちろんこんな少女漫画もビックリな若さに拒絶反応を起こす人もいるだろう。正直に打ち明けると、苦労の末にやっと脱げた「若さ」の衣を、恥じることなくまざまざと掲げられるのは、あまりに歯がゆい過ぎて、私自身アレルギー反応が起こりかけた。

それでも、こんな風にこの応援をしたくなるのは、監督の人柄だけでなく、いくつかの感嘆があったからだと思う。

最後に、大島と聞いて、数年前に滞在した新島のことを思い出した。青と緑のグラデーションで楽しませてくれる広大な自然と出会う人の温かい人柄。残念ながら『二十代の夏』では背景程度でしか感じられることがなかったが、監督の日記を読むと、やはり島ならではの良さがこの作品を包み込んでいる。「若さ」に盲目は付きものだが、彼の味わった島ライフをもう少しお裾分けしてくれればと、旅好きは愚痴らずにはいられない。

『二十代の夏』公式サイト
11/5(土)@神戸映画資料館11/27(日)@横浜にぎわい座12/17(土)@海に浮かぶ映画館にて上映予定