« previous | メイン | next »

November 24, 2016

2016年 ボルドー国際インディペンデント映画祭(Fifib)報告 Part 1
槻舘南菜子

[ cinema ]

フランスには数多くの中規模映画祭が存在する。とりわけ10月と11月は、リヨンのリュミエール映画祭、ラロシュヨン国際映画祭、べルフォール国際映画祭、ナント三大陸映画祭と、映画祭ラッシュの時期に当たる。映画祭激戦期間といえるこの時期を狙って、ボルドー国際インディペンデント映画祭は5年前に誕生した。長編・短編コンペティション部門とともに、先行上映プログラムや特別上映プログラムがあるほか、野外上映とコンサートが毎夜行われる。今年は新部門「Contre-bandes」もつけ加わった。本映画祭で審査の対象となる作品は監督処女作と2作目のみ。そのためすでに日本でも紹介されている作家の姿をここで見つけることは難しいのだが、本年の長編コンペティション部門には前作『猫、聖職者、奴隷』が日本でも上映されたアラン・ドゥラ・ネグラと木下香監督による新作、『Bonheur Académie』がワールド・プレミアされたことは記しておくべきだろう。
Bonheur Académie.png
『Bonheur Académie』

この映画祭の創立に携わったオリヴィエ・アサイヤスは、レトロスペクティヴやマスター・クラス、カルト・ブランシュといったプログラムに毎年参加している。本年の審査委員長を務めたのは、フレンチ・パンクバンド、スティンキー・トイズの元ヴォーカリストであるエリー・メディロス。彼女はフィリップ・ガレルの『秘密の子供』に出演したのち、いくつかのアサイヤス監督作品に続けて出演しており(『Copyright 』、 『Rectangle』、『Laissé inachevé à Tokyo』、『パリ、セヴェイユ』、『8月の終わり、9月のはじめ』)、彼女を招致することはこの映画祭の悲願だったという。


本映画祭のプログラム・ディレクターは、現在も「レ・ザンロキュプティーブル」誌を中心に批評家として活躍するレオ・ソエサント。彼はかつてカンヌ国際映画祭でも批評家週間などのセレクションを務め、現在はロッテルダム国際映画祭でもセレクション委員を務めている。そんな彼に映画祭のディレクションについて話を聞く機会を得た。以下、本報告では彼とのインタヴューを掲載する。
leo_s.jpg
−−これまではどのような活動をされてきたんでしょうか?

レオ・ソエサント(Léo Soesanto、以下LS) 2007年から「レ・ザンロック」誌で批評家として活動していましたが、テレビのドラマシリーズなどにも関心があって、「Sorp」という「レ・ザンロック」と同じ系列のテレビを扱う雑誌で編集長を努めてもいます。プログラマーの仕事としては、2009年から2015年までカンヌ映画祭における批評家週間の長編作品セレクション委員を務めたのが最初です。この6年間の間にヴァレリー・ドンゼッリの『わたしたちの宣戦布告』、レベッカ・ズロトヴスキの『美しき棘』、ジェフ・ニコルズの『テイク・シェルター』、デヴィッド・ロバート・ミッチェルの『イット・フォローズ』といった作品を発見しました。このボルドー国際インディペンデント映画祭では2012年の創設から現在に至るまでプログラム・ディレクターとして働いています。今年からはロッテルダム国際映画祭でも、フランス語圏の作品とテレビシリーズにおけるプログラミングを担当し始めました。私にとってプログラマーとしての仕事は映画批評の延長線上にあり、作品を見せるということをきわめて批評的な行為として考えています。

−−今日において、インディペンデント映画がカンヌを初めとする三大映画祭でセレクションされることは非常に困難です。たとえばカンヌでは批評家週間やL'ACID部門でもフランスとの共同製作のない作品はセレクションされることは稀ですし、コンペでもすでにインターナショナル・セールスが約束された作品がセレクション対象のほとんどを占めています。一方でボルドーは「インディペンデント」作品に特化することで、アメリカ映画への関心はもちろんのこと、他の様々な国の作品に開かれた映画祭と言えますね。現在の外国のインディペンデント映画をめぐる状況をどう考えていますか? 特に注目している国などはあるのでしょうか。

LS かなり複雑な質問ですね。『イーダ』(パヴェウ・パウリコフスキ)や『雪の轍』(ヌリ・ビルゲ・ジェイラン)のような「尖った」作品の成功は氷山の一角と言えるでしょう。フランスでも毎週のように独立系配給会社によって、映画祭に出展されたという点で質の保証をされたインディペンデント作品が公開されてはいます。ですが、批評の成功や賞の受賞はともあれ、興行収入の点で成功を得られたと言えるかは疑問です。現状ではサンダンスやカンヌでの受賞作品ですらも難しい。ホン・サンスやアピチャポン・ウィーラセタクンのような「ヘビー級」の監督作品でなければ、そうした作品に観客を集めるのは配給会社にとって本当に大変な仕事なのです。
ボルドー映画祭は、創設者のジョアンナ・カレールとポリーヌ・レイフェルボルドーによる「ボルドーにサンダンス映画祭をつくろう!」といったスローガンに基づいて、今日までアメリカ映画への関心を強く維持しています。最初の年である2012年には、現在のアメリカのインディペンデントを代表する作家である、ジョナサン・カウエットを招待しましたが、そんな私たちの「アメリカ狂い」は2014年にさらに膨れ上がりました。姉妹都市であるロサンゼルスとの交流50周年を記念して、ロサンゼルス映画祭と共同でプログラムをするに至ったのです。もちろん他の国への関心もありますよ! 2013年には富田克也監督のレトロスペクティヴも開催しましたし、近年のセレクションの流れとして、東ヨーロッパ、とりわけギリシャやブルガリアの作品、またルーマニアの作品にも関心の幅を広げています。

(Part2へ続く)

ボルドー国際インディペンデント映画祭