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May 11, 2018

2018 カンヌ国際映画祭日記(1)
槻舘南菜子

[ cinema ]

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 第71回カンヌ国際映画祭が5月8日に開幕した。今年の大きな事件として、例年はプレミア上映に先立って行われていた、プレス向けの事前上映を撤廃するという発表があった。この件について、フランスでは批評家労働組合を中心にジャーナリズムの権利を主張する声明文が大々的に発表されたものの、その決定は覆されることはなく、その影響で上映の仕組みも大幅に変更され、プレス向けの上映はプレミア上映と同時か、あるいは翌日の早朝(8:30!)に行われることになった。開幕当日の上映は、パリのプレス試写では悪評しか届かないアスガー・ファルハディ監督作品『Everybody Knows』(フランスでは5月9日公開)のみ。国鉄(SNCF)とエールフランスによるストライキが映画祭初日の8日に行われるという予告が4月上旬になされていたこともあって、多くのプレス関係者が前日にはカンヌに到着していたものの、みな手持ち無沙汰という状況だった。
 さて、今年のコンペティション部門は、質を問わず新作を撮りさえすれば否応なしにセレクションされていた河瀬直美やパオロ・ソレンティーノなど常連監督たちの姿はなく、濱口竜介、ヤン・ゴンザレス、あるいはデヴィッド・ロバート・ミッチェルなど若手監督作品の作品が多数セレクションされたことは注目に値する。同時に、いつも我々の期待を裏切らないカンヌの大御所ともいえる監督たち、ジャン=リュック・ゴダールやジャ・ジャンクーとともに、ジャファール・パナヒやパヴェウ・パヴリコフスキが名を連ねる。ここ数年のカンヌではもっとも魅惑的なセレクションではないだろうか。
 一方で、フランス映画のセレクションに関してはどの部門もその保守性は健在と言える。ギヨーム・ブラック、ミカエル・ハース、ヴィルジル・ヴェルニエ、キャロリーヌ・ポギー&ジョナタン・ヴィエルなど、フランスの気鋭の独立系映画監督たちの新作は、監督週間、批評家週間、L'ACID、どこを見渡しても見当たらない。彼らの代わりにノミネートされたのは、いわゆる中規模以上の製作会社によってプロデュースされた、仏国立映画学校FEMIS出身の監督たちや、あるいは女優による初監督作ばかり。唯一、かつて批評家週間で短編が発見され、初長編『真夜中過ぎの出会い』が同部門で特別上映されたヤン・ゴンザレスの『Knife + Heart』がコンペに食い込んだことだけが、フランス映画にとっての唯一の希望だろう。それに比較すると、同じコンペに選出された『Sorry Angel』(クリストフ・オノレ)や『At War』(ステファン・ブリゼ)は、カンヌでの上映同日に封切であることから容易に想像されるように、配給会社による少々派手なプロモーションの一環に過ぎない。
 審査員長のケイト・ブランシェットにはじまり、クリステン・ステュワート、レア・セドゥ、チャン・チェンなどなど、俳優が多くを占めるコンペ審査員たちに選出されるはずの「クオリティが高い作品」なるものが、どれほどに確かであるのかについては、もちろんまだ判断はできないけれど、これからの2週間の映画祭期間中、とにかく沢山の人に出会い、新しい映画を発見し、みなさまにお伝えできればと思います。では、はじまりはじまり。


カンヌ国際映画祭オフィシャルHP