ヒット曲の歴史はメディアの歴史である。映画という複製技術の進化の過程で、生まれるべくして「スタンダードナンバー」は生まれ、レコードの普及と共によりスタンダードなものになる。テレビの黄金期と爛熟を経て、僕らの時代のスタンダードナンバーとはなにか?歌って踊れる楽曲特集。
 
 
2004年11月30日発行
B5判 / 96p / ¥900
ISBN4-902794-14-4
 
【editorial】

まず初めにミュージカル映画があった。そしてスタンダード・ナンバーがうまれる。曲がかかれば歌い(踊り) 出さずにはいられにような、共通認識としてあるメロディが、ミュージカルの中でつくられ消費されていた。
「nobody」16号はミュージカル特集という形で始まった。コール・ポーターの伝記映画『五線譜のラブレター』がまもなく公開され、一方アラン・レネの新作『巴里の恋愛協奏曲』はミュージカル映画だという。焦点が少しずつずれ始めたのは、音楽が共通認識として通用するミュージカル映画がまだ存在しているのかという疑問からだ。スタンダード・ナンバーという言葉は曖昧だ。誰もが知っている懐かしいメロディを探すのなら、別の映画、たとえばスコセッシの映画の中に見つけられるだろう。ミュージカル映画を成立させるメカニズムが消滅したと気付いたとき、音楽の側に、スタンダード・ナンバーと呼ばれる現象の方へと引き寄せられた。
 スピルバーグとゼメキスの新作がほぼ同時期に公開される。『バック・トゥー・ザ・フューチャー』でタッグを組んだふたりが、それぞれの「アメリカ」を引っさげてやってくるわけだ。どちらの作品にも「アメリカ」の姿は見えないが、見えないことこそが信じられる。60年代の日本では、アメリカン・ポップスのカヴァー曲が溢れヒットチャートに列ねられていた。それらの曲のほとんどを訳詞した。漣健児は、歌は時代と時代を象徴する人柄によって育ち、同年代の人々の心に染みていくものだと言う。確かに、スタンダード・ナンバーと呼ばれる楽曲たちは常にその時代を反映してきた。しかし、その発生として時代を反映していながら、でき上がった曲はむしろ時代とは無関係に、別の領域に達しているのではないか。映画『銀座カンカン娘』に映されているのは本物の銀座ではなくセットでつくられた銀座でしかないし、そもそもカンカン娘なるものはどこにもいない。そこには、銀座という、あるいはターミナル、北極という固有名から遠く離れた、「どこでもない場所」が映り込んでいる。

ビートルズの登場によって洋楽のカヴァーという仕組み自体必要とされなくなった。この時代、この場所でこのキャラクターが歌う、どこかに固定された音楽は、多分その場所にしか存在できない。スタンダード・ナンバーとして流通する曲は、“どこでもない「遠さ」”の中にある。(月永理絵)


【contents】
■インタヴュー(p2〜)
nobody meets anybody
KIKI/杜篤之/アンヌ・フォンテーヌ/グウィネス・パルトロウ

・KIKI
『LOVE ARCHITECTURE』が出版され、映画初出演作品『ヴィタール』の公開を間近に控えるKIKIさんへ、東京タワーで伺ったインタヴュー

LOVE ARCHITECTURE ヴィタール http://www.vital-movie.com/
KIKI TERRITORY http://kiki.vis.ne.jp/


・ 杜篤之(ドゥ・ドゥージ)
候孝賢(ホウ・シャオシェン)、楊徳昌(エドワード・ヤン)、蔡明亮(ツァイ・ミンリャン)らの作品を手がけ、また最近では王家衛(ウォン・カーウァイ)の『2046』などの香港映画も数多く手がける、台北生まれの録音技師、ドゥージ先生に伺ったインタヴュー



アンヌ・フォンテー
この冬公開された、エマニュエル・ベアール、ジェラール・ドパルデュー主演の『恍惚』の監督、アンヌ・フォンテーヌに伺ったインタヴュー

恍惚 http://www.wisepolicy.com/nathalie/



グウィネス・パルトロウ
長女を無事出産し、『スカイ・キャプテン ワールド・オブ・トゥモロー』、『シルヴィア』の公開も間近に控え来日したグウィネス・パルトロウの記者会見レポート

スカイ・キャプテン ワールド・オブ・トゥモロー http://www.skycaptain.jp/


■特集:スタンダード・ナンバー(p16〜)

・訳詞家 漣健児インタヴュー
「可愛いベイビー」「ヴァケーション」など、60年代に日本へ入ってきたアメリカンポップスの訳詞のほとんどを手がけた漣健児のインタヴュー



・音楽家 鈴木惣一郎インタヴュー(ワールド・スタンダード)


・すみや渋谷店を訪ねて
日本唯一のサウンドトラック専門店「すみや」渋谷店の取材レポート
すみや http://www.sumiya.co.jp/


・standards on SCORSESE
マーティン・スコセッシの映画に流れるスタンダードナンバーを分析
         


・ザッツ・エンターテインメント
ついに発売された『ザッツ・エンターテインメント』の1〜3と特典映像を収録したDVD-BOX。スタンダード・ナンバーの観点からのレビュー



・論考 「天上の音楽――服部良一の世界」梅本洋一/「Play me a tune 〜コール・ポーターのことなど」黒岩幹子/「映画『巴里の恋愛協奏曲』 歌合戦と歌御殿」衣笠真二郎
巴里の恋愛協奏曲 http://www.gaga.ne.jp/pari/   五線譜のラブレター http://www.foxjapan.com/movies/delovely/



■特集:ロバート・ゼメキス/トム・ハンクス/スティーヴン・スピルバーグ(p45〜)
『ターミナル』、『ポーラー・エクスプレス』記者会見レポートほか
ターミナル http://www.terminal-movie.jp/   ポーラー・エクスプレス http://www.polar-express.jp/



■レビューページ:Current Montage カレント・モンタージュ(p55〜)

Books
『タモリのTOKYO坂道美学入門』タモリ
『ひととせの 東京と声と音』古井由吉
『NOSTAGIA』高梨豊
『いとしこいし 漫才の世界』喜味こいし・戸田学
『青木淳 JUN AOKI COMPLETE WORKS |1| 1991-2004』

Discs
『from a basement on the hill』エリオット・スミス
『Our Kind of Soul』ホール&オーツ
ジョン・フルシアンテの近作

DVD
『ディスティングレーション・ループ1.1』ウィリアム・バシンンスキー
Exposition
ダグ・エイケン"This moment is the moment"展
20世紀デザインの異才 ジャン・プルーヴェ「ものづくり」から建築家=エンジニアへ
Oh! 大水木しげる展

Films
『ニワトリはハダシだ』森崎東
『ニール・ヤング/グリーン・デイル 』ニール・ヤング(バーナード・シェイキー)
『2046』ウォン・カーウァイ
『バッドサンタ』テリー・ツワイゴフ
『ふたりにクギづけ』ボビー・ファレリー&ピーター・ファレリー


■l'Horloge 再見 松浦寿輝は憶えている(p90〜)

松浦寿輝氏が語る、70年代の映画の記憶



寄稿:内田雅章/梅本洋一