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4月13日(月)
 本日、京都の出町座にて日本初上映されたジャン=ピエール・モッキーの代表作の一本、『赤いトキ』。モッキーの作品は発見する度に、こんな映画、これまでに見たことがない!という驚きと共に、その作品に宿るアナーキーなまでの自由な精神、けっして感傷的なものに陥らずも人間へのおおらかな眼差しに心踊らされる。
 この作品をスクリーンで多くの方に見ていただける日が近いことを願い、ここに、オリヴィエ・ペールによる『赤いトキ』の作品紹介を訳出する。
『赤いトキ』ジャン=ピエール・モッキー
オリヴィエ・ペール
 70年半ば、フランスの制度、社会を激しく批判する、アナーキーで扇動的な作品を連続して撮っていたモッキーが、息を抜くようにして撮ったのが『赤いトキ』であり、不条理さと詩的な要素、ブラック・ユーモアをたっぷり散りばめ、犯罪映画の画一的なコードを覆してみせる。モッキーはアメリカの犯罪小説を題材として用いることが多く、ここでは「セリ・ノワール」(暗黒・犯罪小説叢書)の一冊として出版されたフレデリック・ブラウンの『3、1、2とノックせよ』を元に、風変わりで、怪物じみていながら、心惹かれる登場人物たちによる世界を描いている。
 モッキーはつねに俳優たちを愛してきたが、本作ではミシェル・セローとミシェル・ガラブリュが、これまでの道化的な役柄とは離れて、表現の幅を広げ、哀感をそそる人物を作り上げている。セローが演じるのは孤独で、引っ込み思案なサラリーマンであり、子供の頃の性的トラウマによって女性たちを襲う連続絞殺者。対するガラブリュが演じるのは元タンゴの踊り手で、美しい妻(エヴリーヌ・ビュイル)を今でも愛していながらも離婚を求められ、さらにポーカーの賭けで多額の借金を抱え、ギャングたちに追われている男である。そして本作がスクリーンでの最後の出演となったミシェル・シモンが演じる年老いた新聞売りジジは、口やかましく、虚言癖で、厭世的で、これまで彼が演じてきた役柄、『パニック』(1946、ジュリアン・デュヴィヴィエ)のイール氏、『素晴らしき放浪者』(1932、ジャン・ルノワール)のブデュ、『アタラント号』(1934、ジャン・ヴィゴ)のジュールおじさんといった記憶を呼び起こし、その存在はただただ私たちの心を揺さぶる。ジジの唯一の友だちはお洒落なスーツに身を包んだバナナ好きな黒人の少年である。この三人のミシェルのほかにも『赤いトキ』は、脇役からエキストラに至るまで、精彩に富んだ人物たちがたくさん登場し、モッキー秘訣のキャスティングの妙を見て取ることができる。風変わりな顔たち、遊び心あふれた小道具、おかしな服装、口癖、身体的ハンディキャップ......。この風変わりな人々たちのいかがわしい集団、界隈は、モッキーが演出によって、あらゆる社会階級が渾然一体となったフランスの鏡として見えてくる。
 本作は、ほとんどのシーンがサン・マルタン運河沿いや、その界隈で撮られており、戦前のフランス映画の古典作品の中で描かれている大衆的なパリを想起させる。おそらくそこには『おかしなドラマ』(1937、マルセル・カルネ)『北ホテル』(1938、マルセル・カルネ)、『アタラント号』(1934、ジャン・ヴィゴ)などが記憶として蘇ってくるだろう。
 詩的レアリスムの伝統を風変わり(ビザール)なセンスで味付けしたモッキーは、中央アジア出身の映画作家たちの作品、ロマン・ポランスキーの『テナント/恐怖を借りた男』(1976)やスタンリー・キューブリックの『時計じかけのオレンジ』(1971)などに見られるグロテスクでファンタスティックなユーモアのタッチもそこに付け加えている。『赤いトキ』の夢幻的な雰囲気、熱狂的なリズム、モッキー独特の演出方法、いつまでも頭に残るテーマ曲、常軌を逸した俳優たちの演技、こうしたモッキー映画の魅力が詰まった本作は、傑作『あほうどり(L'Albatros)』(1971)の映画作家が、フランス映画でもっとも我々を熱狂させてくれる一人であることを確認させてくれる。権力批判をし続け、茶目っ気あふれるモッキー、彼の創意に富んだ演出方法、映画への果てることなき情熱、彼の作品を活気づけてきた俳優たちへの愛情を我々はこれからも忘れることはないだろう。
ibis-rouge-1975-01.jpg 赤いトキ L'Ibis rouge
フランス/1975年/80分
監督:ジャン=ピエール・モッキー
出演:ミシェル・セロー、ミシェル・シモン、エヴリーヌ・ヴュイル

孤独な会社員ジェレミーは赤いマフラーで次から次に女性たちを絞め殺してきた。同じ界隈に住み、賭博好きレーモンは、借金を返済するために愛する妻のエヴリーヌに宝石を売るよう頼む。そんなふたりが出会い、ある計画が立てられることに......。

◆「第2回 映画批評月間 ~フランス映画の現在をめぐって~ in 関西」@出町座にて上映

「モッキーはささやかな人間喜劇の作家であり、その喜劇は年月が経つにつれ、奇跡へと姿を変えてきた。彼は自らを道徳家と見なすことはなく、寓話作家だと考えていた。暴力や憎悪、偽善と闘う自由な精神の持ち主だったモッキーは、笑いとともにそれらと闘い続けた。なぜなら敵を嘲笑することこそが最良の武器となり、観客たちに真の満足を与えると考えていたからだ。モッキーは風刺、寓話、幻想的あるいはシュールレアリスト的要素を用いて世界を語った。下品だと批判されることもあったが、彼の作品はその逆に、ある種の純粋さ、無垢さを説いてきた。 永遠の反逆者モッキーは、彼の映画の登場人物たちのように、実在する問題に対して常軌を逸しているばかげた、あるいは詩的な解決策を見出し、人生を変えようとしてきた。 モッキーは、自分の作品のもっとも忠実なる観客は子供たち、そして移民労働者たちだと述べていた。モッキーは最良の意味で大衆的な映画作家だったのだ。」

オリヴィエ・ペール(アルテ・フランス・シネマ ディレクター)

4月12日(日)

 オリヴィエ・ペールは2020年3月13日にアンスティチュ・フランセ東京にて行ったジャン=ピエール・モッキーについての講演の最後を、上記の言葉で締めくくった。「第2回映画批評月間」で、昨年のギィ・ジルに続き、フランス映画の知られざる作家、名作を特集する枠で誰を特集したいか、と同氏に尋ねたところ、すぐに名前が挙がったのがモッキーだった。その後、素材や権利の問題が生じたにもかかわらず、モッキー特集を実現させるために協力し続けてくれたペール氏の同講演の原文は「日本におけるジャン=ピエール・モッキー」と題され、以下のブログにて公表されている。

https://www.arte.tv/sites/olivierpere/2020/03/18/jean-pierre-mocky-au-japon/

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 東京、横浜では「第2回映画批評月間」が現在、中止・延期となってしまったが、京都の出町座では、モッキー、そして彼をこよなく敬愛するセルジュ・ボゾン、両監督の特集が現在開催されている。そこで4月12日、本日上映される『言い知れぬ恐怖の町』についてのペール氏による作品紹介を以下に訳出させてもらった。ペール氏のモッキーと本作への熱い想いを通して、本作の魅力を感じていただき、モッキー作品が上映される日が近いことをお待ちいただきたい。


『言い知れぬ恐怖の町』ジャン=ピエール・モッキー
オリヴィエ・ペール

 『言い知れぬ恐怖の町』はジャン=ピエール・モッキーの最良の一本である。ブールヴィル演じるシモン・トリケ警部は、逃亡した偽札偽造者の捜索に乗り出す。逃亡者を追っていくうちに、トリケ警部はオーヴェルニュ地方の想像上の村、バルジュにたどり着き、風変わりなふるまいの住民たちに出会う。そして中世の時代に首を斬られたと言われている「バルジャスク」と呼ばれる獣の存在が村の者たちのもとに恐怖の種をまいていた。

 ジャン=ピエール・モッキーは本作で、ベルギーの作家、ジャン・レーの幻想的な世界を自由に脚色しているが、そこには大いなる幸福感と原作に対する繊細な配慮が十分に感じられる。主役のトリケ警部を演じるブールヴィルを取りまくのは、モッキー作品の常連俳優たち(ジャン・ポワレ、フランシス・ブランシュとその風変わりな子分たち)、そしてフランス映画のかつての名俳優たち(ジャン=ルイ・バロー、ヴィクトル・フランセン、レイモン・ルーロー)がとりわけ奇抜でエキセントリックな役を演じている。バーレスク的かつシュールレアリスト的調子をともなって幻想映画のジャンルに闖入してきたこの驚くべき作品は、公開当時、あまりにも突飛とされ、理解されることがなく、観客の入りもよくなかったため、配給会社からは再編集を求められ、より観客受けするようにと、タイトルも『大いなる恐怖』に変更されてしまった。しかし今回は喜ばしいことにモッキー自身によって監修された真の「ディレクター・カット」修復版、つまり完全版で特別にご紹介させていただく。主役を演じるブールヴィルの魅力的な演技(モッキー作品のブールヴィルはつねに素晴らしい)、そして偉大な作家レーモン・クノーによるユーモアと言葉への愛が詰まっている台詞(契約上の問題でクレジットされていないのだが)が大いに貢献している、滑稽かつ感動的な本作、そのゾクゾクさせる不気味さと、突拍子もなさをたっぷり味わって頂ける貴重な機会となるだろう。

 モッキーにブールヴィル、クノー、ジャン・レー、そして心ゆくまで楽しんで演じている傑出した俳優たち、そして忘れてはならないのが、映画史上もっとも偉大な撮影監督のひとりオイゲン・シュフタン。このように素晴らしい才能が結集し、モッキーのフィルモグラフィーの中でも他に類がない成功作品となった『言い知れぬ恐怖の町』は、60年代以降、あまり試みられることがなくなってしまったフランス映画の貴重な水脈、「詩的幻想作品」の中に位置づけられるだろう。

著者原文:https://www.arte.tv/sites/olivierpere/2013/08/19/la-cite-de-lindicible-peur/
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言い知れぬ恐怖の町
フランス/1964年/92分/モノクロ/デジタル
監督:ジャン=ピエール・モッキー
出演:ブールヴィル、フランシス・ブランシュ、ジャン・ポワレ、ヴェロニク・ノルデー ほか

逃亡した偽札偽造者の捜索に乗り出したシモン・トリケ警部は、オーヴェルニュ地方の想像の村、バルジュにたどり着くのだが、そこには摩訶不思議な住民たち、出来事があふれていた......。ベルギーの幻想小説家ジャン・レーの原作を自由に、幸福感と繊細さとともにモッキーが映画化。モッキー作品にかかせない俳優のひとり、ブールヴィルが風変わりな警部役を魅力一杯に演じている。