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juin 24, 2008

I know it is the sun that shines so bright.

 PK戦でようやくスペインがベスト4に残った。
 3戦連続失望の結果が続き、フットボールの誘惑などと呑気で脳天気なことをほざくな、この大会もまたビッグマネーの投資先なのだ、君が見ているこの番組にしても大きな金銭が動くことでやっと成立している、現実を見なよ、スポーツが新たな快楽を運んでくれるなんて夢みたいことを考えている暇に、この大会に絡む経済システム──そう、フォーメーションなんてことじゃなくて──について考える方が身のためだよ、そんなメフィストの囁きにも耳を貸したくなった。やっぱりイタリアの現実主義がいつも勝利を収めるものさ……。
 カシージャスの好セイヴを見てレイナが泣いている。途中で交代したフェルナンド・トーレスが、両手を組んで祈っている。セスクの番が来た。アラゴネス爺さんがスペインの5番目に指名したのは、フランセスク・ファブレガス。弱冠21歳のアーセナルのセントラル・ミッドフィールダーに、スペインの命運を託した。スタジアムにはアルセーヌ・ヴェンゲルとジダンが仲良く座って観戦している。緊張した面持ちのセスクがボールをプレースし、ゆっくりと後退する。ボールはブフォンが飛んだ方向とは反対のゴールネット右下に突き刺さった。歓喜の時が訪れる。
 PK戦までの120分、スペインの出来は決して誉められるものではなかった。確かにボールはミッドフィールドを回るが、どれもスタンディング・パスばかりで、どのパスも、そこにすでにいる選手の足下に届けられ、未知の空間を創造したりはしない。偶に前方に押し出されるスルー・パスもイタリアの老練ディフェンダーを混乱させるものではない。ビジャもトーレスも、そして代わって入ったグイサにしても局面に変化をもたらすことは出来ない。幸い、トーニもずっと不調をキープしていて(ブンデスリーガを見ないぼくは、この人の好調な姿を見たことがない)、イタリアも点が入りそうにない。ずっと膠着状態のままの120分。誰もこの凍り付いた時間を切り裂く勇気を持った人はいなかった。もっと緊張するPK戦の時間を迎えることを知りつつも、この時間に亀裂を入れることもできない。退屈な緊張感が、突然夏がきたウィーンを包み込んでいるようだった。スペインにとっての凶日6月22日、それが今大会でも繰り返され、良いチームだったが勝負には弱い、という常套句が今年もこのチームに与えられそうになる土壇場で、いつものようにシャビに代わってピッチに立ち、特段活躍したわけでもないセスクの右足がこの凍り付いた時間にピリオドを打ってくれた。
 イタリアではなくスペインがベスト4に残ったことは重要だ。ポルトガルがかつて持っていた輝きを見せることなくピッチを去り、若いカリスマ的な指導者を持つクロアチアが土壇場で涙を呑み、ファンタスティックなフットボールという束の間の夢をぼくらに与えてくれたオランダが、当初から指摘されていた弱点を露呈させてファンバステン時代を終わらせてしまった後、スペインは、とりあえずぼくらにとって唯一の希望だった。だが、メフィストの囁きを聞く限り、この「無敵艦隊」にまつわるジンクスを知る限り、さらに声を張り上げるアラゴネス爺さん──この爺さんもフィリッポンと同じようにちゃっかり再就職先を決めている──の顔を見る限り、その希望の実現も見果てぬ夢と終わるかと思われた。イタリアは、計算通り(?)PK戦に持ち込み、フットボールの質がどうのこうのという問題を超越した時間に勝敗を棚上げすることに成功した。
 しかし、スペインの若きミッドフィールダーたちと、このゲームでは動物になりきれなかったダヴィド・ビジャが、メフィストにもジンクスにもリアリズムにも耳を貸さず、フットボールのために、長短のパスが瞬時に生み出す未知の空間のために、そして、もっとこの季節にぼくらのフットボールをしたいという欲望のために、次のゲームが出来る喜びのために、この停滞した時間を終わらせてくれた。素直に喜びたい。 

投稿者 umemoto youichi : juin 24, 2008 12:29 AM