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June 8, 2015

『マナカマナ』ステファニー・スプレイ&パチョ・ヴェレズ
渡辺進也

[ cinema]

 映画のタイトルになっている『マナカマナ』は、女神像のある聖地のような場所で、かつては険しい山道を3日かけて登ることでようやくたどりつけるような場所にある誰でも簡単に行けるようなところではなかった。それが山の麓から頂上までをつなぐロープウェイができたことによりわずか10分ほどで行くことができるようになった。
 と、書いてみたけれど、そういったことはこの映画の中で説明などされるわけでない。あくまでもロープウェイに乗る人々の会話の端々から知ったことである。確かに、それぞれのゴンドラの中の時間を固定したカメラで間断なく撮り続けるこの映画で、人々乗せたロープウェイは出発して10分ほどで到着し、次の人物が乗っても同じ時間で到着している。わずか10分でいくつもの山を越えてたどりつけるようになるのは劇的なことなのだと思う。しかし、ただゴンドラのなかの光景を映し続けているだけのこの映画を見てもマナカマナがどういった場所かを知ることができるわけでもないし、ロープウェイによって彼らにとって何かが変わったということを知ることができるわけでもない。じゃあ何なのかと言われれば、はそこにあるマナカマナという場所とロープウェイというものを触媒に、ただそこにいる人々を描いたものであると答えることが正しいように思える。
 暗闇の中、ガタンゴトンといったゴンドラの振れる音とウィーンというロープのきしむ音が聞こえる。それが発車場から離れた瞬間光に包まれ、並んで座る人物が姿を現す。最初の乗客は、おじいちゃんと孫だろうか、歳の違うふたちの男が並んで座っている。ふたりはキョロキョロと辺りを見回しながらも何一つ言葉を発しない(この映画で僕らが初めて言葉を聞くのは、三組めの客が出てくる20分は過ぎたころである)。僕らはそれを見ながらときに彼らが視線を向けている先を想像したり、あるいは彼らの関係性を想像したり、彼らの背中にある窓から見える急勾配の山肌や対面からひっきりなしにやってくるロープウェイの姿をぼんやりとみつめる。常に鳴り続けているのは連結部分でガタゴトとわずかにきしむゴンドラとクィーンと鳴り続けるロープの音。そうした映像と音が運動を映し出している。そして、これは発着する度に人物を変えながら11組の人々で同じことが繰り返されている。ただゴンドラの中の光景を見ることだけに終始させる。
 不思議なのは最初は想像するばかりだったのが、気が付けば彼らの一挙手一投足に、彼らの会話に夢中になって見ていることだ。聖地巡礼といった言葉からそこには厳かな空気が流れていると思われるかもしれない。しかし、そこで話される内容はいたって日常的なことである。昨日あったことだったり、誰かのうわさ話だったり。あるいは彼らがゴンドラから見つけたトウモロコシ畑や娑羅双樹の樹のことだったり。「あ!あんなところに村がある」なんてことばかり言っている。だが、それが決してつまらなくないのだから、そこにいる人たちが豊かであるということなのだろう。おみやげ屋さんで買ったのだろうか、溶けていくアイスで腕をベトベトにしながら食べるおばあちゃんがとてもかわいい。バンドをやっている風の長髪の3人組がとっぽいことを言いながらも肩を組んで自撮りする様にニヤニヤする。あるいは西洋の女性とアジアの女性がゴンドラに乗ってもいつまでも話し始めないことに緊張したりする。しかし、彼女たちが日記にどんなことを書くかとその場所とはあまり関係ない話をし始めると、急に会話が活発になり世界が輝き出す。
 ゴンドラは彼女たちだけの親密な空間であり、彼らたちだけが大パノラマを見ることのできるスクリーンであったりする。何の変哲もない狭い空間が彼女たちの人生や彼らたちの魅力を映し出す劇的な空間になる。ロープウェイができたから何かが変わったのではない。聖地を訪れるがために彼らがいつもと違う姿を見せるわけでもない。ただそこには人々がいて、生活がある。そう思わせる広がりをこの映画は感じさせる。この映画は16ミリのフィルムで撮影されているとのことだ。その理由のひとつは16ミリのフィルムが撮影中に回せる時間とロープウェイの所要時間がほぼ同じだからということらしい。だから、ゴンドラはカメラなのだ。そう言われてみると、何か形状もそこから出る音も似ているような気がしてくる。映画の歴史において、カメラの中で回っているフィルムが世界を映し出してきたように、ゴンドラの中の光景は世界を映し出している。


※『マナマカナ』は、「ハント・ザ・ワールド ハーバード大学感覚民族誌学ラボ 傑作選」にて『モンタナ 最後のカウボーイ』、『ニューヨーク ジャンクヤード』、『リヴァイアサン』とともに上映。

「ハント・ザ・ワールド ハーバード大学感覚民族誌学ラボ 傑作選」
6月13日(土)より、シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開