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2006年07月02日

Hush Hush Sweet Steven!

イングランド対ポルトガル 0-0 (1-3)
まるで甲子園で敗れた田舎の高校生が号泣するように、ファーディナンドがジェラードが泣いている。すでに52分にピッチを去ったベッカムがベンチで顔を押さえて泣いていた。ジョン・テリーも泣いている。皆、泣いている。120分死力を尽くし、それからのPK戦。昨日のアルゼンチンもそうだったが、ここまで来ると万感迫るものがあるのだろう。どうして負けたか。敗因の検討などどうでもいい。今、ここでピッチを去り、明日から別の日常に戻ることが哀しい。できれば120分+αの時間を取り戻したい。
 そして見ている側は考える。94年のアメリカW杯の決勝もPK戦になり、ブラジルに負けたイタリアは、フランク・バレージとロベルト・バッジョという攻守の要になる選手がPKを外した。そして、今回もランパードが外し、ジェラードが外した。最後にカラガーが外したのはもうしょうがないとして、このチームはランパードとジェラードのチームで、そのふたりがもっとも重要なPKを外してしまう。普段なら全体に外すことはなく、多くの修羅場をくぐり抜けてきた才能に溢れる歴戦の勇者が、こういう場面で失敗することが多い。

 見ているぼくらもいろいろ思うこともある。
 まずエリクソンはなぜうまく行っていない4-1-4-1を使い、1にクラウチでなくルーニーを入れたのか? まったくボールが収まらないルーニーのストレスは想像できるし、このタイプの選手はそういうストレスには弱いだろう。彼の退場の遠因にはエリクソンの選手起用があったのではないか。素直に4-4-2 でよかったのではないか。ルーニー退場後に出場したクラウチに本当にボールがよく収まった。
 ひとり多くなったポルトガルが勝ちきれなかったのかなぜか? テリー、リオのふたりのセンターバックの頑張りもあるが、こうしたパスワーク主体のチームは、ペナルティエリアの中に引かれた相手に対処のしようがない。強力なストライカーが必要だ。ルイス・フィリッペが次々に切ったカードはほとんど効果がなかった。交代選手のレヴェルはそれほど高くない。つまりこのチームにはジョーカーがいないから、勝ちきれない。

 イングランドは本来の力を出さずにピッチを去った。いくつか理由があるが、ひとつは結局出場機会はなかったがウォルコットを連れて行かねばならないくらいイングランドにはアタッカーが不在であること。04年のユーロではオーウェン=ルーニーのペアだったが、2年経っても「発見」されたのはクラウチのみ。豊かな中盤やサイドアタッカーに比して、ストライカー不在は目を覆うばかりだ。二つ目は、エリクソンの頑固さがチームにフレキシビリティを生まなかったことだ。4-1-4-1の〈1〉の不在が明瞭なのに、ルーニーにその重責を負わせた。ワンゲーム見て無理だと分かったのに、勝たねばならないゲームでそれを繰り返す。フラットな4-4-2のイングランドを見たかった。

 ブラジル対フランス 0-1
イングランドの選手はPK戦に敗れてあんなに泣いたのに、ブラジルの選手たちは平然としている。ジダンを祝福するロビーニョまでいる。負けても平気! 1点ビハインドの75分ぐらいになると、ノックアウト・システムの場合、選手は必死でやるものだが、必死なのはロベカルぐらい。他の選手は普通にやっている。これでは「普通に」負ける。若い選手にはセレッソンの誇りなどもうないのだろう。地元で活躍し、高額でヨーロッパに移籍すれば、もう人生の望みが達成されてしまったのだろうか。

 もちろん、敗因の多くはパレイラのフォーメイションのミスに由来する。昨日、ぼくは、ブラジルの監督は簡単だと書いた。トップにふたり選び、4バックを並べ、そしてボックス型の中盤の前にふたり、後ろにふたり選べば仕事はお終いだと書いた。でもパレイラは、弱気になった。王者が相手に合わせてしまった。ロナウドのワントップの下にロナウジーニョとカカ、そしてボランチにジュニーニョ、ジウベルト・シウバ、ゼ・ロベルトを3人並べた。4-3-2-1あるいはロナウジーニョをトップに置いたようにも見えるので、4-3-1-2。フランスは、もう打つ手がないので、清々しく4-2-3-1。フランスのこのシステムはジズーのためのもので、他の目的はない。ジズーを活かすには、これしかない──つまり、04年のユーロでの失敗は、ジャック・サンティエが4-4-2に拘ったことだ──。マケレレとヴィーラは走って潰し、マルーダとリベリは走ってチャンスメイク。アンリはここぞでシュート。単純な戦術だ。対するブラジルはロナウドが起点にならない。ロナウジーニョが前戦で消える。カカは走り続けるが多勢に無勢。パレイラが思い直すのは後半リードされてから。やっとジュニーニョに代えてアドリアーノ。遅きに失した。

 さて準決勝はドイツ対イタリア、ポルトガル対フランス。
 ドイツは、ここら当たりでもう現実の壁に突き当たって欲しい。マテラッティが戻ってくるイタリア。ネスタの体調はどうか。カンナヴァーロにクローゼは完封されるだろう。ガットゥーゾがバラックに襲いかかるだろう。ピルロをフリングスが潰せるのか。リアリズムが夢を蹴散らすだろう。
 ポルトガルには、王政復古はアナクロニズムであることを王国に知らしめて欲しい。デコの頑張りにかかっている。まあ王政復古もあと2ゲームだから、許してもいいけど。ポルトガル対ドイツよりもフランス対ドイツの方が見たいかな?

投稿者 nobodymag : 2006年07月02日 16:12