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2007年09月30日

Back to the Future : フィジー対ウェールズ 38-34

 身体がその基底部で覚えている習慣、ほとんど自律神経のような運動、もともと存在していた要素の上に練習によって培われたオトマティスムではなく、もっと前から存在している何か──フィジーは、ここ一番の勝負で、そんな自らの基底部にごく自然に回帰し、ウェールズに勝利を収めた。
 かつて誰かがそれを「フィジアン・マジック」を呼んだこともあったし、第1回のW杯では、驚きを以てそれを見つめたものだが、第1回のW杯でベスト8に進み、それ以上の成績を指向するとき、彼らの基底部から目をそらし、ワールドスタンダードを導入したことで、封印されてしまった「フィジアン・マジック」。今回、それを思い出すことは監督の意図でも、ゲームメイクの方針でもなかったろう。選手がごく自然に選び取った何か、その魅力的なフィジーのプレイによって、ウェールズは沈んだ。
 もちろん、ウェールズはベスト8に進むに値するチームではない。セクシー・フットボールで前々回W杯を席巻し、オールブラックスをすんでのところまで追い込んだパスプレイから、スタンダードなラグビーに回帰することは、限りない後退であり、そうした後退を意図的に選択したチームは、ベスト8であってはならない。たとえこのゲームでスティーヴン・ジョーンズが、あろうことか、ゴールキックを3本ポストに当てた──ポストの間を通す方がよほど簡単だと思うが、ラグビーの神がいたなら、ウェールズよりもフィジーを選んだということであり、この選択は正しい──ことが直接の敗因であるにせよ、ジャパンを簡単に退けたからといってウェールズは、シックスネイションズにおいてはイタリア以下の力しかないだろう。
 無闇なコンタクトを避け、瞬時にスペースをさがしながら、多様なパスを繰り出す。ゲインラインという考え方よりも、ボールを保持し、スペースを見つけ出しながら、前進を図る。防御法の進歩したモダンラグビーでは、もちろん詰まってしまうことになり、そこでモールラックになる。そうしたブレイクダウンを強化することが現代的なチーム強化ということになり、フィジーもニュージーランドからコーチを招いたこともあった。だが、テストマッチの成績が示すように、そうした強化に失敗し──それなら、サモアとかトンガのやり方でいい──、方向を失いつつあったところだろう。この日のゲームでもウェールズは、フィジー・ゴール正面で得たペナルティにスクラムを選択したし、拮抗したゲームを展開したジャパンもモールからトライをひとつ取っている。
 だが、オフロードも織り交ぜながら、パスを繋ぐフィジーのゲームを見ていると、もう新しい戦術など生まれようがないくらいに画一化されたラグビーにも、そのスタイルにまだ大きな可能性があることがわかる。浅く広いラインばかりのライン攻撃よりも、狭く深いラインにも可能性が残されていること、ポジショニングとハンドリングによって、もっと面白いラグビーが可能であること。フィジーを見ていると、少なくともウェールズよりもずっと勝利にふさわしいチームであると思う。

投稿者 nobodymag : 2007年09月30日 14:13

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