オールブラックス、レブルーの敗因
フランスがオールブラックスに勝ち、黒衣軍団は帰国を余儀なくされた。フランスにとって、このゲームが唯一の会心のゲームだったろうが、それについては後述する。問題はオールブラックスが準々決勝で負けたことだ。今でもぼくはこのチームがW杯では1番だと思っている。アタックでもディフェンスでもベストメンバーならば、もっとも素晴らしい。カーワンは経験を欠いていると言ったが、問題は、経験よりも、キーになる部分に人材を欠いていたことではないか。どこに問題があったのか? フロント3だ。カーターとマカリスターを並べることで、確かに攻撃力は上がるだろうが、センターにはもっと突破型の人材を配するべきだった。グレアム・ヘンリーはしぶとく勝つのではなく、美しく勝つことを目指したのだろうが、カーターが怪我をしたら、パサーのニック・エヴァンスが登場し、ゲームの質が変わってしまった。マカリスターはカーターの控えに置いておくべきだった。
そのオールブラックスに快勝したフランスもイングランドとアルゼンチンに敗れ、後味の悪い自国開催になった。このことについては別のところ(狂会本)に長く書きたいのはここではその端緒だけ。ディフェンスについての方法論は確立されたが、アタックの面では最低のレブルーだった。このラグビーにクリエイティヴィティはない。逆にこのチームが準決勝まで来たのが不思議なくらいだ。
アイランダーズの健闘とジャパンの将来
フィジーとトンガは素晴らしかった。彼らはディフェンシヴなゲームメイクからPG、DGというチームではなかった。特にフィジーは、ゲームを進めるにつれて、自らに備わったDNAを少しずつ思い出していった。このチームも、もちろん第1回W杯で旋風を巻き起こしてから、ニュージーランドからコーチを招き弱点を消すことに走って失敗を重ねた。だが、一試合ごとに、自分たちの本能を目覚めさせた。最初のゲームが対ジャパン戦。接戦だったことを思い出せば、そのチームがウェールズに勝つことになると予想した人はないだろう。ディフェンスを強化して、じっくりと戦うのが、このW杯のメインストリームだとしたら、長短のパスとディアゴナルな走りでボールを繋ぐことを中心に据えたフィジーのラグビーは、完全な例外になる。前回W杯のウェールズのセクシー・フットボールがある程度の成功を収めたように、パス・プレイにはまだまだ可能性がある、そのことを見せてくれた。
そして、ぼくらだってアイランダーだ。
けれどもフィジーやトンガのようにはなれなかった。2勝するというチームの目標からは遠い結果しか得られなかった。失敗だった。原因はいろいろあるだろう。もちろんスキルの差。特にSOの差は目を覆うばかり。残念なのは、カーワンのリクルートがベストではないこと。素早いライン攻撃をすると自ら言うのなら、それなりの人材を当てはめるのがヘッドコーチの役割ではないのか。結局、このチームはジェイムズ・アーリッジの怪我から、ずっと悪循環が続いている。そして、アーリッジに代わるピースを見つけようともしなかった。これはHCの怠慢だ。
どうすればいいのか。
長期的な視野に立って、長い期間をHCに任せるという意見にぼくは与しない。毎年、目標を与え、その達成度を査定し、評価していく作業が必要だ。だが、もちろんジャパンの合宿で基礎的なスキルや戦術を反復練習しているようではいけない。各所属チームでのスキルアップが大原則だが。まずパシフィック・シックスネイションズで最低2勝。アメリカやカナダなどにはコンスタントに勝てるチームにすることが評価の基準になるだろう。
これで準々決勝進出の8チームが決まった。アルゼンチンがフランスに勝ち、アイルランドに勝った。第1ラウンドはアルゼンチンの躍進と南半球勢の強さが目立った。誰でもが考えるように、本当はカーディフでのロスプーマス対オールブラックスが見たかったが、ベルナール・ラポルトも語るように「B組で一番強かったのはアルゼンチン」なのだ。
フランスは、オールブラックスにどうやって対処すればいいのか。ラポルトは、この戦いではすべての面で上回らなければならない、と言う。つまり、これといった作戦はない、ということだ。フランスのメディアは水曜日に発表される予定の先発メンバーの予想を語る。問題は常にSO。ここまで固定メンバーで戦わず30人で戦うことを主軸に回してきたツケがまわったようだ。どう考えてもオールブラックスの優位は動かない。オールブラックス・サイドから考えるとベスト8でW杯を去るのは屈辱以外のなにものでもないだろう。だが、ここからはノックアウト・システムの戦いだ。どうやって戦うのか、と指向するよりも、敵よりも強く、早くボールを奪い、アタックする。気持ちだ。
ジャパンの4ゲームを振り返ってみよう。
まずリクルートの問題。これはJKの責任だ。安藤と心中まではまだ許す。だが、その後に呼んだ選手がまったく活躍できなかった。ハーフ団の問題は、勝てるゲームを落とす原因になった。多くの人々が書いているように、辻が必要だった。そして、バックアップ選手にも入らなかったが、セレクションしたことのある廣瀬(東芝)が必要だった。そしてゲームメイクの問題。これはもちろんハーフ団のセレクションとも関わるが、これはJKの責任とばかりは言えない。必死に頑張るだけでは勝てない。ゲームをどうやって勝利に導くのかを考え続けることがゲーム中の選手たちに求められる。それができていない。いろいろな部分では劣るけれども、ゲームは勝っていく。そういう戦術眼を選手たちが身に着けるためには、経験が必要だろう。競ったゲームを勝つ体験、あるいは、どうやって競ったゲームを勝っていくのかというラグビーを思考する経験。それが圧倒的に欠けている。ワラビーズやウェールズに、負けても善戦する体験と、トンガやサモアやフィジーに対して負けゲームを勝ちに持っていく経験。プロ化以後、たとえばスーパー14やトライネイションズを見ていると、ゲームメイクで勝ちを拾うゲームをいくつも見ることができる。
そしてJKの評価。目標の2勝を達成できなかったのだから、その意味ではマイナス。まず選手たちのディフェンス能力を上げるだけでW杯を迎えたということだろう。JKは、育成型だ。長いスパンで同じチームを育てるのに向いている。短期決戦に勝つには向いていない。勝負師というよりもスキルを伝えるコーチだ。
フランスには来たけれど、ワラビーズ戦だけに登場した選手たちの労をねぎらいたい。ワラビーズに勝つためにはどうすればいいのか考えて欲しい。ぼくらにとってワールドカップは、ようやく少しだけ始まったばかりだ。アイルランド対アルゼンチン、フィジー対ウェールズなど楽しみなゲームがこれからだ。ぼくは、北半球のチームがどうやって巻き返すのか見ていきたい。
対トンガ戦にBチーム仕様でスタートしたスプリングボクスは冷や汗をかいた。サモアを敗り、勢いに乗るトンガは、ガンガン来るから、Bチーム仕様では、いくらスプリングボクスとは言え、追いつめられてしまった。焦ってAチームの面子を後半店晒しにしたが、準備が十分ではなく、ゲームにうまく入っていけなかった。やっと勝つには勝ったが5点差の辛勝。ラグビーとは気青でやるものだ。PNCのとき、このトンガに勝ち、サモアに良い勝負をしたのがジャパンだった。そのジャパンが、トンガが僅差の勝負をしたスプリングボクスやファンタスティックなラグビーを見せてくれたサモアが負けたイングランドよりも「格下」のウェールズに大敗している。