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渡辺進也
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October 17, 2009

10/17
渡辺進也

 仕事を終えて六本木の夜へ。
 第22回目を迎える東京国際映画祭は今日開幕。ホセ・ルイス・ゲリン『イニスフリー』を皮切りに映画祭への参加を始める。
今日から一週間ほどここで日記の形式で映画祭の様子を紹介できればと。お付き合いいただければ幸いです。

 昨年度の東京国際映画祭で、雑誌としてはインタビューしたけれど、僕個人としては出会い損ねたゲリンの作品。しかしプレスセンターの場所がわからずいきなりヒルズの中を迷ってしまい、上映に遅れる。初日から映画祭スタッフの方に助けてもらう体たらく。
 上映の始まった劇場に入ると、積まれた石垣の前に置かれた「J.FORD」と記されたアームチェアが目に入る。「今こそイニスフリーに行くときだ」というオフの声。イニスフリーとは1951年ジョンフォード監督、ジョンウェイン、1モーリン・オハラ主演の『静かなる男』が撮影された村の名前である。クルーたちは『静かなる男』の撮影されたこの村で『静かなる男』を巡る映画を撮影する。
 イニスフリーは本当に小さな村だ。森と海で囲まれ、野原が広がり、街唯一の酒場(ジョン・ウェインが車で訪れるあの酒場である)でおとなたちは盛り上がる。ちびっ子たちが映画のあらすじを語る。アメリカから帰ってきた男が。村娘と結婚し、その結婚を快く思わない彼女の兄と決闘するあの映画のあらすじを。村人たちは語る。「フォードは世界で一番偉大な映画監督だ。」「ウェインはほんとに気さくなヤツだった。」「俺はクランクアップした夜にあったパーティでオハラにダンスを申し込んだ。」「決闘のあの場面で野次馬として出演したんだ。」『イニスフリー』撮影時の40年も前に『静かなる男』は撮影されたのだから、彼らはもういい齢だ。そんな彼らがそのときの撮影の様子を肴に、劇中の歌を歌いながら生き生きとした顔で宴会をしているのだから見ているだけで愉しい。彼らは思い出話を語るのでなく単なる自慢話としてあの映画を語る。
 ウェインが歩いたあの道、ウェインとオハラが住むあの家、ふたりが自転車に乗っているあの森、そしてウェインとヴィクター・マクラグレンが殴り合いの決闘をするあの野原。もちろん変化もあったのだろう。しかし、それでもあのときのままの風景がそこに広がる。そして、歳をとろうともあの映画に出てくる人たちのままににぎやかな村人たち。
 一方で彼等は働いていたりと生活がある。きこりたち、農民たち、生徒たち。かつてイエーツの別荘があったというこの村へと映画は侵入していく。そうすると彼らの生活もまた少しずつ映画に似てくるのである。杖を振り回す喧嘩腰の男がいて、恋愛中のカップルがいて、にぎやかな集団がいて、アメリカへの出稼ぎから戻ってきた女の子がいて。なんというかうまく言えないけど、この監督には事実をフィクション化する力がある。もしこの中に職業俳優が紛れ込んでいてもたぶん気付かないと思う。
 途中、野原の真ん中でバンドが演奏する中踊る女の子たちの姿が映るのだけれど、そのとき奥の方で子供たちが土手を駆け下りてくる場面がある。三々五々ばーと広がって降りてくるほんの短いショットなんだけどその場面できゅんとなりました。JLGというイニシャルの持つこの監督が広く日本で紹介されるときを心より待ちたいと思う。

『イニスフリー』(ホセ・ルイス・ゲリン監督)の上映予定
10月18日15:10
10月21日20:50
>> 作品情報はこちら

投稿者 nobodymag : October 17, 2009 9:40 PM