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2005年8月28日

2005年8月28日

まさかこのお店で受けるサービスをまったく知らないで飛び込んできたわけでもないだろうに、彼は出会うなり大声でなんやかんやとまくしたてて、なかなか衣服を脱ごうとしなかった。私が業を煮やして彼のシャツに手をかけると、彼は大げさに飛び上がり確かにこういった。「もう何するんだよ、いきなり」。
それでもタオルを器用に使ってなんとかパンツまで脱ぎきった彼は、文句を垂れつつ促されるままシャワー室へと入り、その扉をぴしゃっと閉めると続いて5センチぐらいまた扉を開け、その隙間から腰に巻いていたタオルを私のほうに突き出した。私がそれを受け取り待っていると、次に彼は濡れた手を差し出しそのタオルを催促した。「見るなよ!」甘えても怒ってもいないが妙に意志のある彼の言葉に、私は大げさに目をつぶった。彼がシーツに横になった音を確認 すると、私はゆっくりと目を開けた。彼が視線の先を探るように私を凝視してくるので、私も彼の目をしっかりと見つめながら手探りで彼の局部へとタオルをかけた。思いがけなく、タオル1枚で横たわる彼とナース服の私は、決闘の前に向かい合う武士たちのような緊張状態にあった。
「じゃあ、お顔のマッサージからさせて頂きますね」。私はいつもの台詞を口にすることで、狂った調子をなんとか取り戻した。彼もマッサージにつきものの大げさな感想や吐息でそれに応戦してくれた。シャワーに入るまでのやり取りに、ずいぶんと時間を割いてしまったが、幸いにも若々しい彼の身体は、私が マッサージするまでもなく十分にほぐれていた。私は時間どおりに性感にはいった。うつぶせの彼がふと押し黙ったのを見計らい、私はナース服を脱いだ。彼の背にまたがり、ベビーパウダーを振りかけた。「あ、この匂いはベビーパウダーだね」。
なんだ知ってるんだと、安心してうなずくと、私は指先に神経を集中させ美しい曲線にそってそっと彼の背に触れた。「……何!?」彼がおびえた猫のよう飛び上がって全身をこわばらせた。「何って……パウダーマッサージです」。私はそっとささやくとまた彼の背に指を這わせた。「あ、なんだ。これがパ ウダーマッサージか」。私は脇腹や二の腕の後ろなど、皮膚の薄くなった身体の側面の部分が特に敏感に感じやすいことを知っている。集中的にその敏感な部分を触っていく。私の指の動きにあわせて彼が身体をくねらせる。私は突き出した丸くてかわいいいお尻へと指を滑らせる。突然彼が大きな声を出す。
「あぁ、もうやめて! なんか触り方がやらしいんだよ!」察するに彼の愚直な言い方に、裏の意味はなかった。私は手を止め、この純真な男性を一体どうやっ てオルガスムまで導いたらいいのか思いあぐねた。彼に風俗産業の形態について一から説明する時間はない。私は彼に仰向けになるように伝え、彼の腕に横になり、無言で彼のペニスに触れた。彼が敏感に声を上げた。意外にも彼は静止しようとはしなかった。私は彼に足を絡ませアヌスから亀頭にかけてねっとりと指先をスライドさせ、先端からペニスを手のひらで包み込んだ。ゆっくりとその手を上下させた。彼はもたれかかるようにして私に全力で抱きつき、深く足を絡ませた。私の手にあわせて彼は自ら腰をふった。それは私の太ももにペニスを押し付けるような格好だった。この体勢はこの店のプレイ対象外ではないだろうか……。私はふと冷静になった。しかしかすかに赤みの差した顔でぎゅっと目を閉じ腰をふる彼に、そんな注意はてんで見当違いな気がして、私はそのままにしておいた。「いっちゃいそうだよ」。しばらくすると彼が言った。彼の腕の中で、そうと伝わるように私が大きくうなずくと、亀頭に触れた手の中に温かくて柔らかな精子が溢れた。
いってしまうと急に羞恥心がよみがえったのか、彼はまたばっと局部をタオルで隠しながらさっさとシャワーに入ってしまった。彼が身体を洗い流して着替えを終わると、どこかよそよそしい奇妙な雰囲気の中で、私は彼に封筒を手渡した。「もしよかったら、アンケートをお願いできませんか? あの、私見ないことになってるんで、思ったこと何でも気にしないで書いてくださいね」。彼は封筒を開くと顔を曇らせこう言った。「えー、なんかこれ、やだね」。書くこと自体が面倒な様子でもなかったので、きっと彼は評価される対象にある私に対して思いやりの気持ちを抱いてくれたのだと思い、私は少しうれしくなった。「優しいですね。でも、まぁ、仕方ないですよこればっかりは……」。しかし彼は即座に言葉を返した。「いや、じゃなくてなんかおっぱいが綺麗だったとか書けないじゃん。だって、それ見て店の人は、あーこの子おっぱい綺麗なんだ、とか思ったりするんでしょ?」「……」。「悔しいよね。あーもー全部×にしちゃおっかなぁ! えーと、『女の子の接客態度はどうでしたか』……『最悪だった』『フィニッシュはどうでしたか』……『最悪』」「……」。彼の言葉に私はかなり動揺した。よくも悪くもアンケートとはお店の向上心の誇示と商品としての女の子の評価であるとほとんど無意識に刷り込まれていた私は、ふたりの時間を内密なものと感じていたらしい彼によって完全に足下をすくわれていた。突然彼が、その時私たちが置かれていた客と風俗嬢としての関係を、男と女の生々しい出会いへと転化させた。いや突然ではなく、私に異様に不自然に見えた彼は、初めからそのつもりだったのだ。

投稿者 nobodymag : 00:32

2005年8月20日

2005年8月20日

実家に帰郷した隙に、父親の本棚の隅にそろりと置かれていた『スカートの下の劇場』を盗み読む。そこには、「パンティ」の多角的な歴史的変遷を通してかいまみえる1989年のセクシュアリティが描き込まれている。出版当初から16年の歳月が経過した現在、それを単純に鵜呑みにすることはできないが、それでも「動物的な性欲」をむき出しにし始めた女性と、「手続きが最高の価値」でありゴール(挿入)を単なる付随品として捉える男性、という非対称なセクシュアリティのあり方への指摘は、私の職業を考える上でもひとつの鮮烈な基準となるだろう。上野千鶴子もまた、当時広まったばかりだった「ソープランド」を男性の受け身的快楽の発見として評価している。以降「ヘルス」「イメクラ」「ピンサロ」「SM」「性感エステ」等へと至る細分化の流れを、即物的で能動的(になりがち)なインサートを先延ばしにしたい男性の妄想の産物であると考えることは間違いではない。
ところで私にはセクシュアリティよりパンティこそ切実な問題だ。というのも私の業種では、女性は性感時パンティのみ着用での接客となるからだ。この場合私の身に付けるパンティは、自身のイメージを外的要因によってコントロールすることのできる唯一無二の装置として機能する。一体どのようなパンティがこのTPOにもっともふさわしいかというのは、かねてからの疑問なのだ。上野は本書において、セックスアピールとナルシシズムというパンティの持つ二面性に注目している。パンティは、男性と女性の交錯する外的・内的な視線のなかで実に様々な局面を呈する。上野によれば、男性はパンティをそれ自体として愛で、誰がそれを履いているかは度外視する。もしくは彼らは現物の女性と対面すると、彼女らの身に付けるパンティに視線を落とすゆとりを失ってしまうのだ。彼らにとってのパンティとは生身の女性の下着ではなく、そのために彼女たちがパンティをセックスアピールとして選択するさい前提とする男性の視線は、実際には架空のものとなる。女性はナルシスティクな自己演出を目的としてのみ、パンティを選ぶのが正しいし、上野によれば実際の多くの女性たちは単にそうしているだけなのだ。
さて、自分がやる気になるパンティを探しに、私は早速下着屋さんに足を運んだ。しかしそこで目にしたのはパンティではなくブラジャーだった。多くのブラジャーとパンティはセットになってそろえてひとつのハンガーにかけられていて、パンティはまるで背景のように多様なブラジャーの後ろで小さく揺れていたのだった。私は仕方なく気に入ったパンティを含むセットを2点選びだして試着室へとはいった。パンティの試着は禁止されている。ブラジャーを試着して店員さんにみせると、彼女はひと言こういった。「あー、あってませんねぇ。別のものお持ちしますね」。あっていないのはデザインではなく胸の形だった。彼女は次から次に様々なブラジャーを試着室に持ち込み、私と一緒になってひとつひとつそれを確認してくれた。最終的に最も私の胸に形があっていたブラジャーと、それとセットになっているパンティと、さらに色違いの同じセットを手に取り、私は自動的にレジへと向かった。私に最もふさわしいパンティを決めたのは、結局男性でも私自身でもなく店員さんだった。
「ブラジャーとパンティはセットで」という認識は、1989年当時はあまり一般的ではなかったのだろうか。さらに現在はずいぶんと機能性が重視されるようになった気もする。それらはセクシュアリティに何らかの影響を与えているのだろうか。男性陣はどう思っているのだろう。いずれにしろ私が新品のブラジャーとパンティという純真無垢なイメージについやる気を抱かされてしまったのは確かではあるが……。

投稿者 nobodymag : 15:01